だって、とても美味しそうに見えたから。
シルバーバレットの書斎の、その机にはひとつ鍵のかかる引き出しがある。
そこにはビニール袋に入れられた原稿用紙の束があり、それは子どもたちであっても容易には見せてもらえない程度には───大事に、大事にされている。
「…」
シルバーバレットにとって、それは
それも、一等の。
袋のかかった原稿用紙は日焼けのひとつもなく。
手垢ひとつ、つかないように。
丁寧に丁寧に取り扱っては、それを眺めては微笑む。
「ああ……」
そして今日も。
シルバーバレットはそれを取り出すと、うっとりとした表情で読み返す。
何度でも。飽きることなく。
愛しい相棒からの愛の言葉を。
*
『本を出すんだ』
そんな話をされたのは何年も前のこと。
相棒の類まれなる文才を、前々から知っていたシルバーバレットは驚かなかった。
逆にどうしようか、断ろうかと悩む相棒の背を
『僕を、第一の読者にさせろ』という約束をもって。
「へぇ、」
そうして。
本が出来上がったとハードカバーが送られてきたのは、その話がまた数ヶ月ほど経ったあとのこと。
ハードカバーの表紙を開きながら、最初のページに書かれた文字を見て、…思わず声が出た。
『親愛なる我が友-シルバーバレットに寄せて』
その言葉と共に書かれた物語は、確かに素晴らしいものだった。
今まで読んだどんな作品よりも素晴らしいと思えるものだったが、"ナニカ"物足りなくて。
こてん、と首を傾げながら何度も何度も読み返していたある日。
「はい、バレット」
「?」
手渡された原稿用紙の束。
何だこれは?と問うより先に、「読んでみてよ」と言われてしまった。
……仕方がないなぁと思いつつ、それを受け取る。
ぱらり、ぺらりとめくっていくうちに、あぁ、と納得する。
足りないと思ったものは
「……これじゃ、ダメじゃない」
「仕方ないだろ、校正されちゃったんだから」
くすくす、ケラケラ。
シルバーバレットの手の中にあるものは原稿。
物足りないと思っていたモノ総てが、これでもかと詰め込まれた情の煮凝り。
10人読めば10人が大なり小なり精神的に変調を来たしそうな本の
綴られているのは、重ったるい『
胃もたれを通り越して胃を吐き出しそうな。
脳が溶けるを通り越して頭蓋骨をカチ割りそうな。
どろっどろのぐっちゃぐちゃ、それでも『愛』と謳う
「───ねぇ、これさ」
「うん」
「校正のヒト以外で、僕以外に読んだ人、いる?」
「まさか!」
即答されたそれに、シルバーバレットは満足気に笑みを浮かべ。
「…僕、ヤギになりたいなぁ」
「なんで!?!?!?」
ある本の原稿:
校正の人のSAN値を削った狂気。
"ある存在"に対しての『愛』をこれでもかと述べた奇稿であり手紙。
内容的には"ある存在"を賛美…から始まるなんやかんやだが
だが
…自分以外の誰も見ないように。
食べて、腹の中に収めたいくらいに、ね?