さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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だって、とても美味しそうに見えたから。



手紙がついた

シルバーバレットの書斎の、その机にはひとつ鍵のかかる引き出しがある。

そこにはビニール袋に入れられた原稿用紙の束があり、それは子どもたちであっても容易には見せてもらえない程度には───大事に、大事にされている。

 

「…」

 

シルバーバレットにとって、それは()()()()()だった。

それも、一等の。

袋のかかった原稿用紙は日焼けのひとつもなく。

手垢ひとつ、つかないように。

丁寧に丁寧に取り扱っては、それを眺めては微笑む。

 

「ああ……」

 

そして今日も。

シルバーバレットはそれを取り出すと、うっとりとした表情で読み返す。

何度でも。飽きることなく。

愛しい相棒からの愛の言葉を。

 

 

『本を出すんだ』

 

そんな話をされたのは何年も前のこと。

相棒の類まれなる文才を、前々から知っていたシルバーバレットは驚かなかった。

逆にどうしようか、断ろうかと悩む相棒の背を押した(蹴った)

『僕を、第一の読者にさせろ』という約束をもって。

 

「へぇ、」

 

そうして。

本が出来上がったとハードカバーが送られてきたのは、その話がまた数ヶ月ほど経ったあとのこと。

ハードカバーの表紙を開きながら、最初のページに書かれた文字を見て、…思わず声が出た。

 

『親愛なる我が友-シルバーバレットに寄せて』

 

その言葉と共に書かれた物語は、確かに素晴らしいものだった。

今まで読んだどんな作品よりも素晴らしいと思えるものだったが、"ナニカ"物足りなくて。

こてん、と首を傾げながら何度も何度も読み返していたある日。

 

「はい、バレット」

「?」

 

手渡された原稿用紙の束。

何だこれは?と問うより先に、「読んでみてよ」と言われてしまった。

……仕方がないなぁと思いつつ、それを受け取る。

ぱらり、ぺらりとめくっていくうちに、あぁ、と納得する。

足りないと思ったものは()()()と気づいたのだ。

 

「……これじゃ、ダメじゃない」

「仕方ないだろ、校正されちゃったんだから」

 

くすくす、ケラケラ。

シルバーバレットの手の中にあるものは原稿。

物足りないと思っていたモノ総てが、これでもかと詰め込まれた情の煮凝り。

10人読めば10人が大なり小なり精神的に変調を来たしそうな本の()稿()

 

綴られているのは、重ったるい『()』だ。

胃もたれを通り越して胃を吐き出しそうな。

脳が溶けるを通り越して頭蓋骨をカチ割りそうな。

どろっどろのぐっちゃぐちゃ、それでも『愛』と謳う()()の物語。

 

「───ねぇ、これさ」

「うん」

「校正のヒト以外で、僕以外に読んだ人、いる?」

「まさか!」

 

即答されたそれに、シルバーバレットは満足気に笑みを浮かべ。

 

「…僕、ヤギになりたいなぁ」

「なんで!?!?!?」





ある本の原稿:
校正の人のSAN値を削った狂気。
"ある存在"に対しての『愛』をこれでもかと述べた奇稿であり手紙。
内容的には"ある存在"を賛美…から始まるなんやかんやだが受け取るべき相手("ある存在")以外が読むとグチャグチャにされること必至(色々と)。
だが受け取った("ある存在")本人は熱烈なラブレターにキュンキュンしているとか。

…自分以外の誰も見ないように。
食べて、腹の中に収めたいくらいに、ね?
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