脚部不安が続き、G1を獲れないまま凱旋門2着のあと屈腱炎で引退→種牡馬入りという流れです。
鬼超えて修羅になったってだけじゃそりゃ勝ったって思うよね…と自分で読み返して思いました。
誤解を与えたようですみませんでした。
【追記】
誤字報告ありがとうございます。
「キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス、か…」
シルバーバレットと出会ったあの頃も、強い馬だと思っていたけれどまさかこんな場所に来れるまで強かったとは思わなかった。
日本とはどこか違う空気と空。
それに落ち着かない僕とは違い、彼は変わらず平然としていた。
「その落ち着き、少し分けて欲しいくらいだなぁ…」
「フヒン」
*
今日が本番らしい。
7月終わりの少し暑くなってきた風が体を撫でる。
僕の上に乗る騎手くんはガチガチとはいかなかったが緊張しているようで落ち着くために僕を撫でているのだがその手はどこかぎこちなかった。
そんなに気負わなくていいのに、と思う。
そう思いながらも周りから向けられる好奇の視線に少しばかり辟易とする。
お世話になった厩舎の子たちはもう舐めてくることはなくなったけれど、やっぱりこっちはなぁ……。
まぁ僕が小さ過ぎる、歳がいってるというのもその理由に入っているのだろうが、
(全員、置き去りにすれば終わりだしな)
*
緊張していた僕とは違い、シルバーバレットはいつものように逃げに入った。
競り合ってこようとした馬もいたかもしれないが彼の方が速すぎて、その存在の確証はない。
一応、馬場が日本とは違うため走りにくいだろうという話を聞いていたわけなのだが、
(全然そんなことないな、コイツ)
悠々と走っていくだけ。
逆にいつもと違う地面の感触を楽しんでいるのではないかとすら思える。
相も変わらず、レース前は舐められていたシルバーバレットだけれど、勝って舐められなくなればいいなぁと思いながらゴールを通過したのだった。
*
ふぃ〜、たーのしー!
初めは地面の感触に「おぉ?」ってなったけれど走ってみたら面白かったな、うん。
走り方もこの前のジャパンカップみたいにならないように気をつけたし。
あんな走り方したらもう歳いってる騎手くんが振り落とされかねないからね、仕方ないね。
「よくやった」
騎手くんが撫でる手も僕が走っている間に緊張が取れたようでいつもと変わりがなかった。
走ってて後ろから誰も気配感じないな〜と思ってたら僕がゴールに入ったあと、1秒ちょっとして2着の子がゴールに入っていた。
……海外に来たら強いやつに会えるかな〜って思ってたんだけど、海外でもこんなもんなのかなぁ?
*
その日、そのレースにやって来た小柄な馬を内心舐めていたところがなかったと言えば嘘になる。
あれほど小さく、それも普通は引退しているだろう年齢で法外なワールドレコードを出したとは信じがたかったのだ。
だが、悠々と勝利を決められた。
2着である
しかし、その先をいったのがシルバーバレットだった。
最初から最後まで追いすがることしか許されなかった。
…そんな極東から来た悪魔が産声を上げたことを、まだ誰も知らない。
僕:海外勢にとっての悪魔が爆誕した。
1991年の海外勢のみなさんは運が悪かったね…と後世言われる。
まさかあんなバケモンが来るって思わないだろ!
ここからプライドとか脳をぐしゃぐしゃにされたり焼かれたりする一年が開幕する。