顔も知らないニンゲンに気を許していたとある馬とその馬に魅せられたあるニンゲンの話。
…それは偶然か、それとも
その牧場はひっそりと、しかし知れ渡るほどには悪名が高かった。
「え?あそこの話、か」
その男(話を聞いている彼にとっては父にあたる)は過去、件の牧場からよく馬を買っていた。
何度となく、『この馬なら走る!』を繰り返してはそのたびに未勝利というのを繰り返していたのだが。
「思えば、お前が買ったあの子だけが例外だったんだよ。だって…」
───あそこの馬は、根本的に人を信頼していなかったんだから。
*
その牧場で生まれた馬はどこがどういいとは上手く説明できないが、それでも魅力に溢れるものを持っていた。
『力』という言葉を体現したかのような、そんなオーラがあったのだ。
そして、彼はそれに魅せられた。
だから何度も通ったし、時には金も惜しみなく使った。
だが、一向に結果が出ることはなかった。
「…あぁ、そうさ。俺が金を注ぎ込んだのは」
家族には大きな迷惑をかけたと思う。
けれど魅せられてしまった。
かつて垣間見た、口籠に目隠しをされた馬に。
確かに恐ろしかった。
でも
故にその馬に列なる馬を買い漁り。
そして失うべくして、失った。
「まぁ、今となってはどうでもいいことだけどな」
男は自嘲気味に笑いながら、話を締めくくる。
「……それで?」
「いや、それだけだ。それ以外には、ない」
そうだ。
今となっては、どうでもいい。
"シルバーバレット"という、存在が現れた今となっては。
いつか魅入られた、あの馬の血を継ぐ者が現れた、今となっては。
───────
─────
───
その馬が思うに。
そのニンゲンはおかしかった。
誰からも恐れられる自身に、無遠慮に近づいてきては手を差し伸べてきた。
まるで、自分のことを分かってくれているかのような。
そんな感覚さえ覚えてしまう程に。
確実に
それがとても不思議でならなかった。
ただ、それ以上に嬉しくもあった。
何故ならば、今まで誰も彼もが自分の姿を見て逃げていったからだ。
なのに目の前にいる人間は違った。
撫で方は下手だったが、決して嫌ではなかった。
むしろ心地よかった。
そしていつの間にか、そのニンゲンに対してだけは心を許していたように思える。
……自身の子どものことを、任せるぐらいに。
───だがある日を境に、それは唐突に終わりを迎えた。
いつものように近寄ってきたニンゲンが、自分を抱きしめるようにして言った言葉によって。
(さよなら)
(さようなら、ニンゲン)
ニンゲンの世において、金は入り用。
ならばこの帰結も…当然のことだったのだろうが。
(、)
ぐたり、と体が沈む。
どうやら、今まで気力だけで
そうぼんやりと考えて、今度こそ
【こそこそ実は…な話】
白百合・銀弾母子が引き取られた牧場では前々から馬主としての初代白銀(白銀仁の父)の手によりたびたびホワイトバック産駒が預けられており、そのためホワイトバックの血筋の扱いに慣れていたという裏話があったりする。
またその牧場には種牡馬や繁殖牝馬としてホワイトバックの血を引く馬が何頭か…。