あの日の"あなた"。
いつかの、"あなた"。
その子と出会ったのは偶然だった。
やって来ていた療養施設にて迷子になっていたその子。
『やぁ、迷子かい?』
チラッと見守ってもフラフラ逍遥していたので声をかけた。
だって今にもなかなか人が来ないほうに進もうとしていたし。
それで声をかけて、素直に『迷っている』と返答があったので案内してあげて、
『キミは…最近来た子かな?』
『あ、あぁ…。昨日来たばかりなんだ』
『なるほど』
そんな話をした。
その子が療養施設に来た日の僕は、ちょうど昔に骨折した脚の経過観察が入っていたので別の場所にいたのだ。
施設に帰ってきたのも遅い時間だったので取り置かれていた食事をとって風呂に入って…。
『はい。ここがキミの目的地だよ』
『おお…!』
『また、迷子になったら見かけた子に声をかけてね。みんな優しいから案内してくれるよ』
そう言ったところで不意に呼ばれる。
声をかけてくれた子に近づくと来た荷物(食料品含む生活必需品)が思った以上に多く、運ぶ子たちを募ってほしいと頼まれ。
『うん分かった。今から声かけに行ってくる』
『ありがとうございます!』
*
『やぁ』
『あ』
『前、いいかい?』
『あぁ』
昼時になって、食堂に行くとあの子が今日も大盛り(といっていいのか定かではない)を持って食事をしていた。
まだ他のみんなはリハビリなどをしているようでふたりしかいない食堂。
ならひとりで食べるのも寂しかろうと声をかければ二つ返事で了承されて、
『よく食べるね』
『……むぐ。…逆に、先輩は食べなさすぎだ』
『そうかなぁ』
目の前には山のような食事。
その一方、僕の方にあるのは小さなうどん鉢。
定食メニューについているミニうどん程度の大きさの鉢。
『…よく、それで』
『あはは。慣れてるからね』
食べていたおかずのひとつを譲ってくれようとするのを謹んで辞退する。
美味しそうではあるんだけどね…、ウマサイズに作られたご飯はどうにも…。
『僕が低燃費なのは昔からだし。逆にトレーナーの方がよく食べるくらいだよ』
『そうなのか』
『もしかしたらキミと同じくらい食べるかも?…なんてね』
そう告げると目の前の子がメラッとした炎を出し始めたので慌てて止めて、『僕たちはフードファイターじゃないんだから』と押し留める。
まぁ、聞き分けのいい子だからすぐに納得してくれたけど。
『先輩』
『ん?』
『先輩は、名前をなんと…?』
『…そりゃあ野暮だよ』
いつも言っているのに、この子は相変わらずだ。
『この療養所じゃ誰もが平等なンだ。戦績なんか関係ない、ただのウマだ。…
なァ、───"後輩"クン?
先輩:
施設のまとめ役。
後輩のことを『素直で可愛いな〜』というテンションで見ている。
後輩の食べっぷりを見るのが好き。
後輩:
どこかの芦毛さん。
よく迷子になる。
そして先輩に世話になっては『面倒見のいい人だな』と思っている。
先輩が食べなさすぎて心配。
施設:
ウマ用の療養施設。
いつの間にか決められていたルールとしてお互いの名を名乗らないというのがある。
だって、『はじめまして』はこんな場所じゃなく…
それはそれとして、誰かが施設から退所する時はみんなで『よかったね〜!』と見送る模様。みんな、湿っぽいのは嫌いだかんね!