さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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四月一日はまだ来ない。
だから。

現実(ホントウ)、なんだ」

「ウソ、なんかじゃ…」




四月一日(わたぬき)なき日々

ぬいぐるみを拾った。

けれど、それはぬいぐるみではなかった。

 

『みー、みー』

 

微かにそう鳴いて、家の中をちょこちょこと。

可愛い女の子を模したぬいぐるみだ。

でも耳から見るに擬人化とか、そういうものっぽいけど。

 

「こらこら、危ないよ」

『みー!』

 

そのぬいぐるみは人として生きるには…少しばかり向いていない僕の世話をよくしてくれた。

時おり様子を見に来てくれる或る家族の前ではただのぬいぐるみのフリをしていたけれど、それ以外はもっぱら。

小さな手でどこから取り出したのか、箒とちりとりで家の掃き掃除をしたり、雑巾で床を拭いたり。

洗濯物をしてみたり、料理をしてみたり(どうやらぬいぐるみの小ささとは裏腹に力はとても強いらしい)。

そんなこんなで、僕がごく一般の生活を送れるようになったのはこの子のおかげだったりするわけだけど……。

 

「まったく……」

『みー?』

「なんでもないよ」

 

不思議そうな顔をする彼女を撫でてあげながら僕は思う。

これはきっと夢なんだって。

"キミ"にあった跡を人の顔に構成すればこうなるだろうという色の違う布地。

"キミ"の不思議な毛色に似た髪の毛。

"キミ"の声のような鈴の音のような声色。

"キミ"の手触りと大きさを再現したような手ざわりの良い肌。

…そして何より、 "キミ"と同じ表情をする彼女を見て、確信したんだ。

これは『夢』なんだって。

もしくは幻覚とも、いえるかもしれない。

自分の頭がおかしくなっていることは、遠の昔に自覚しているものだから。

だから、おかしくなって、自分がいちばん望むモノ…らしきナニカを見ても、そうおかしくはないだろうと。

 

「今日は何しようか?」

『んー! みゃっ!!』

 

けれども。

彼女は元気よく返事をした。

…あぁ、なんて幸せな日々なんだろうか。

 

 

彼女が来てからというもの、僕は眠れるようになっていた。

もそもそと布団に入り込んでくる彼女を抱き締めて(何故ならそうするように促されたから)眠りにつくのだ。

夜中に目が覚めることも少なくなり、朝までぐっすり眠るようになった。

今まで以上に体調が良くなったし、気分も良い。

 

「ねぇ、」

『みー?』

「キミはどうして、僕のところに来たの?」

『み、み、みみっ!』

「そんなどこかのコヨーテから逃げる鳥みたいなこと言われても分からないなぁ…」

 

ふあふあで、もちもちな小さな体。

それを抱きしめているだけで心が落ち着く気がするのは気のせいではあるまい。

ずっとこのままで居られたらいいのにと思う反面、いつか来るであろう終わりを想像すると胸の奥が痛んで。

 

「……もし、もしもだよ? キミがいなくなってしまったら……僕はまた独りぼっちになってしまうね」

『……』

「そうしたら僕は今度こそ壊れてしまうかも……」

『みぃ~……』

 

ぎゅっと抱きついて、胸に頭を押し付けてくる彼女の背を優しくさすった。

小さな体は簡単に折れてしまいそうだけれど、それでもしっかり生きている温かさがあり。

ぽすぽすと、布と綿のやわらかな手が僕の頬を撫でるのに目を細めた。

 

「……ありがとう」

『みぃ♪』

「うん……本当に優しい子だよね」

『むぅう!?』

「ごめん、つい」

 

ぷくーっと膨れたほっぺたをつついて空気を抜いてあげる。

それからもう一度謝るようにきゅうと抱き締めれば『み、み』とくすくす笑いが聞こえたのだった。





ぬいぐるみ:
ぱかっとしてプチっとしたぬいぐるみ。
どこからともなくある日突然現れた。
持ち主のおじさんにはどことなく彼女を見て連想される"ナニカ"があるらしい。
家事もお手の物だが如何せん布と綿製なので火に近づくと危ないし、水に近づくと萎びる。
おじさんのことが大好き。

おじさん:
ちょっ、…いやだいぶ精神をやっているおじさん。
でも人間的生活ができないのは元から。
けれどぬいぐるみが現れてからは徐々に人間らしさを取り戻していく。
…なんかどっかのほのぼの漫画とかでありそうなシュチュだね。
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