さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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センチメンタルというか哲学。



六月の蝉

蝉は土の中で随分と過ごしては成虫となって約一週間程度で儚くなるのだという。

その約一週間で子孫を残さなくてはならないというのは大変そうだなぁと思うが今したい話はそれではない。

 

蝉。

土の中にいる蝉。

土の中で成長しては、ほんの一瞬の輝きを見せる。

 

───まるで、自分みたい。

…などと言ったら『巫山戯てる?』と言われそうではあるが。

僕自身としては何となく、そう思ってしまうのだ。

 

ぼんやりとベンチに座る僕の近くで季節外れの蝉が鳴いている。

ひとりぼっちの、蝉が鳴いている。

音のする方に行くとやはりそこでは蝉が鳴いていた。

バレぬように近づいて、そっと昔取った杵柄で捕まえてみれば摘んだ指先を伝って伝わる振動。

 

鳴いている。

ただ鳴いている。

生きている、と示すように。

同族には届くはずもない、声を上げている。

それを眺めて、僕は指もとい片手にかけていた力を抜いた。

そうするとジジジ…と天高く舞い上がり、どこぞへと飛んでいく蝉。

 

そう言えば昔、狂ったように蝉の幼虫の抜け殻を収集していた時があった。

その時はまだ純粋無垢だったからか、それとも単に収集癖でもあったのか。

どちらにせよ、あの時の自分が今の自分を見ればきっと驚くことだろう。

何の気兼ねもなく、虫を素手で捕まえて虫かごに乱雑に突っ込んでいた自分が、余っ程のことがなければ虫を触ろうとしないなんて。

そんなことを考えながら、ふぅー……と息を吐く。

それは風に乗って何処かに消えていった。

 

 

恙無く過ぎる日々。

代わり映えなく、平穏に過ぎる日々。

木々が風で揺れる音をBGMに走っていれば数日前にした思考もそれとなく脳の隅に放られているもので。

 

「…」

 

ベンチの近くで蟻の行列を見た。

ここいらは子どももよく遊びに来る、ありふれた公園であるから誰かが菓子でも落っことしたのだろうと踏んで近寄れば。

 

「…」

 

小さい蟲が集る。

それがひとつの黒い塊となり微かに喘鳴する。

少しずつ少しずつ。

千切られては運ばれて小さくなる。

随分と時間が経っているらしい"ソレ"はもはや羽しか残っていなかった。

太陽光に反射して、キラキラと光る薄い羽。

それに手を伸ばす。

触れた瞬間に小さな悲鳴を上げて崩れ落ちる。

あぁ、壊れてしまった。

もう二度と動くことはない。

翅脈に沿って優しく撫ぜると、その感触すら感じないほど脆かったらしく砂のようにサラリと風に攫われていく。

 

誰もいない、見ていない木陰の隅で。

六月某日の午後。

蝉が────。





僕:
シルバーバレット。
その気になれば虫をむんずとできるタイプのウマ。
沈む時はとことん沈んでそう。
なおその時期中は終わりが近づいた猫のようになるので連絡手段を持たないまま何処かしこにフラフラしては周りを心配させている。
また蝉以外にも蜉蝣とか好きそう。
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