さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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やっぱりあの人に憧れのある主人公さん。


◆憧れの想起

まさか海外遠征に行くことになるとは思わなかった。

こちらは引退する気満々だったというのに、その話を聞きつけたURA職員やら会長であるシンボリルドルフやらがやって来て土下座の勢いでそう頼み込むものだから了承するしかなかった。

 

後輩に今年引退するだろうと言ってしまったのは気まずいが思考を切り替えねばなるまいと頬を叩いて気合を入れた。

 

『海外遠征』

それを行った日本のウマ娘はトゥインクルシリーズの歴史上あまり数がいない。

海外遠征を行ったウマ娘で有名なのはやはりシンボリ家だろう。

僕の同期も一時海外遠征をしていたようだが、学園内で海外遠征の話を聞く時はもっぱらシンボリの名が出ていた。

最近では一昨年の天皇賞・秋で引退となったシリウスシンボリが有名だろうか。

 

「はぁ……」

 

あれだけ必死に頼まれたら断るものも断れなくなるだろう。

僕が普通のウマ娘よりもだいぶ歳がいっているのは分かっているだろうにという気持ちと僕にそれだけの期待を寄せているのかという気持ちが綯い交ぜになる。

 

「まぁ、行くには行くさ」

 

そう言った時のみんなの顔と言ったら!

パァァ!という擬音がついてる顔だったね、アレは。

 

「楽しめるといいけどね」

 

 

シルバーバレットが海外遠征するという一報は瞬く間に日本中を駆け巡った。

あのジャパンカップが記憶に新しい人々は彼女が海外遠征することをこれほどなく歓迎したのだが、年齢を理由に反対する声も同じように上がった。

だがそれを封じ込めたのはシルバーバレット本人で。

 

「まだ何もしてないのに憶測で物事をいうのはやめていただきたい。

年齢がなんです。そんなもの、私は振り切ってきました。

今回も振り切って、逃げ切ってやりますよ。

……逆に、やりごたえのあるウマ娘がいるかどうかが問題ですねぇ」

 

記者会見の場でそう啖呵を切ったシルバーバレットはニィと口を吊り上げ獰猛に笑う。

その姿に彼女と同じルーツを持っていた遠き日の二冠馬を彷彿とさせる人もいたようだ。

 

 

その人は確かに僕の憧れだった。

ダービーで全てを差し切った『電撃の差し脚』。

気性は大変荒い人であったけれど、寒門の出であるということにシンパシーを感じて、ボロっちいテレビの前でその人を応援したものだった。

 

冬になると風が吹き込んでくるボロボロの家。

食事も満足になかった。

貧乏を馬鹿にされたこともあったけどとても優しくカッコイイ母と小ちゃな、かわゆい妹さえいれば幸せだった僕をこちら側に引きずり込んだのが先生だった。

 

今も昔も先生にはずっと感謝している。

走りたいって自分の欲に嘘をついて、家族のために働こうとしていた僕を無理やり引っ張ってでもこちらに連れてきてくれた。

 

だから僕は先生に恩返しをしたい。

……海外遠征を勝てば、先生への恩返しになるだろうか。




僕:土下座する勢いで頼まれたので海外遠征を承諾した。
強いヤツと戦いたい気持ちが一応ある。

憧れの人は幼き日に見たとある2冠ウマ娘。
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