さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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後はもう、薄れるばかり。



走り続け、遺り続け

ここ数年、見る夢はずっと同じ。

 

【そうやってずっと…腑抜けてんのなら、俺にくれよ】

「ヤダよ」

 

真っ暗な世界で鎖に繋がれた【自分】と対面する。

鎖以外にも拘束具やら口枷やらで自由を奪われている。

…あぁ、相も変わらずこれは()だ。

 

【俺はもっと…ずっとずっとずっと走りたいンだよ!】

「そう」

【こんな風にさァ!】

 

【自分】が声を荒げて叫んだ瞬間に世界が変わる。

変わったそこは…今も忘れることができない、

 

「好きだね、ここ」

【だって、忘れられるワケねェダロ?】

 

東京レース場(ここ)は、【自分】が生まれた場所だ。

領域(ゾーン)】という類稀なるチカラが、生まれた場所…。

 

【俺はここで生まれた!お前の中で、産声を上げた!!】

「…」

【嬉しかった!やっとお前のチカラになれるって!ずっと歯がゆかったから!!】

「…」

 

ふたりだけしかいない、虚構の場所で対峙する。

ギザギザ歯の瞳孔が開いた目で、ボタボタと涙を流しながら自分を睨みつける【俺】を見る。

少ない時ではあったが、自分を支えてくれた【俺】を、見る。

 

「…」

【言 う な】

 

口を開こうとすると察したように止められる。

そりゃあ、そうか。

僕は【(キミ)】で、【(キミ)】は僕。

言いたいことも分かってしまうし、思っていることも分かってしまうのだ。

だから、言わせてくれないんだろう。

言わせたく、ないんだろう。

でも、 だからこそ、言ってあげなくちゃいけない。

言わなくちゃ、いけない。

他でもない僕が。

 

「ありがとう」

【、】

 

…どうだろう。

僕は【(キミ)】の前で、綺麗に笑えているだろうか。

年老いて、もう、【(キミ)】を万全に扱えなくなった僕は。

ちゃんと、笑ってあげられているだろうか。

ねぇ。

僕の、最後の願いを聞いてくれるかい?

そんな顔しないでおくれよ。

今更だけどさ、…きっとキミは僕のヒーローだった。

ずっとずっとそばにいてくれた僕の【領域(ヒーロー)】。

 

「本当に、ありが、とう……」

 

だから。

次は。

 

「未来を、助けてあげるんだ」

 

僕と、【(キミ)】で。

 

 

ウマたちの中でまことしやかに囁かれる噂として『継承』というものがある。

簡単に言うと、それは次の世代へチカラを渡す行為を指すもので、それを受け継いだものには莫大な富と名誉が与えられるとされている。

だがしかし、その方法とは実に曖昧なものであり、その内容を知るものは誰ひとりいないというのが現状である。

だが、ただひとつ言えるのは。

 

「…楽しそうだなぁ、【(あの子)】」

 

『継承』を受けたと思われるウマに、重な(ダブ)るように見える()があるということで…。





【俺】:
シルバーバレットの【領域(ゾーン)】。
ずっと、ずっとずっとずっと(そば)で見ていた。
諦めないキミのチカラになりたい、その一心で。
でも、やっとのことで出たころにはもう…。

もっと、キミと一緒にいたかった。
キミと、走っていたかった。
けれど、キミが…そう望むなら。

【因 子 継 承】

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