さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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見かけだけ、そうなろうが。



"まっくろけ"さん

その日、マンハッタンカフェが見た父の親友とやらは"まっくろけ"だった。

小柄な背格好をしている、とだけが分かるその人物はやさしげなジェスチャーをしていたけれど、マンハッタンカフェの耳に届くのはザワザワと、まるでラジオが混線だかした時のような雑音(ノイズ)のみ。

 

ただ、そこだけが切り抜かれたような。

そこだけが、黒の絵の具でぐしゃりと塗られたかのような。

()()()()()

 

「…カフェ?」

 

思わず、普段はしもしないのに父の服の裾を掴んで。

それに驚いたか、困惑したかの声をかけられるも本能から警鐘をあげた恐怖に反応できないまま、ただマンハッタンカフェはじっとその人物()を見つめていた。

 

 

「あいっかわらず、真っ黒だな」

「そう?」

「あぁ」

 

ぺしぺし、ぱしぱしと。

手のひらでこびり付いた"黒"を払ってやる。

払われている張本人である親友-シルバーバレットはよく分かっていない顔をしながらも成されるスキンシップにされるがままにしている。

 

「めっちゃ触るじゃん」

「触んねぇと、取れねぇからな」

「そんなもんかなー……」

「おうよ」

 

会話をしながら、しかし手の動きを止めない自分に対して諦めたか、あるいは慣れたのか。

シルバーバレットはされるがままになりながら、「ま、いいけどね」と。

 

サンデーサイレンスが、"そのこと"に気がついたのはシルバーバレットと交友を深めるようになって少しのこと。

シルバーバレットの服の、それも目立つところにボン、と黒い染みが。

最初は何か汚れでもつけてしまっただろうかと思ったのだけれども、よく見ればそれはインクやペンキの汚れではなくて…。

それがなんなのかは、すぐに分かった。

 

ざわざわ、ぎゃあぎゃあ。

重なり合いすぎて、意味をなさなくなった音。

鳥肌の立った肌を、思わず掻き毟ってしまいたいくらいにおぞましい…【執着】。

シルバーバレットの体にべったりと張り付いて離れようとせず、それどころかその体の中に入り込もうとさえするソレは……あまりにも強すぎる、人の想い。

 

(……こいつは)

 

何故()()()()()を抱え込んでいて、平然としていられるのか?

その体の中に入り込もうとするソレは普通なら障りがあって然るべきなモノなのに。

だというのに、このウマはそれを気にした様子もなく。

…いや、むしろ。

 

(入り込もうとしても、()()()()()()のか?)

 

そう思い至った瞬間にはもう、サンデーサイレンスは行動していた。

 

「……えっと、何してるんだい?」

「黙ってろ」

「はい」

 

無造作に手を伸ばして、べたりとその貼り付いているソレを払い落とす。

呆然としている親友を後目に地面に落ちたソレ()をぐり、と踏み締めて。

 

「埃、着いてたもんでよ」

「…ぁ、そう、なの?…ありがとう」





"まっくろけ"さん:
黒で塗り潰された誰か。
本当なら入り込めるはずの"黒"はそこで停滞してしまって、停滞してしまっているから、溜まるしかない。
溜まるから塗り潰されたようになって、"まっくろけ"になってしまった。
…まぁ、払おうと思えば払える"黒"なので。
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