さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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その背が欲しくて。
その目が、欲しくて。



飽くなき

その背は小さかった。

遠近感が狂う…とまでは言わないが小さいのは、確かであった。

 

走り去っていく背。

遠ざかっていく背。

後ろなんて、振り返ってくれなくて。

こっちなんて、見向きもしてくれなくて。

その名を、叫んでいるというのに、聞こえているはずなのに……。

 

「───」

 

声にならない叫びを上げて、カツラギエースはベッドから跳ね起きた。

全身汗だくで、呼吸は荒い。

まるで全力疾走した直後のような感覚だった。

 

(またかぁ)

 

はあーっと大きくため息をつく。

物心ついた時から見続けていた夢は、最近グッとリアリティが増した。

逆光で、ただ小さいとしか分からなかった背がクリアになり、それが"誰"かと…。

 

「おはよう、カツラギ」

「あ、あぁ…。おはよう」

「…なんだい、そんな」

 

『幽霊』でも、見たような顔をして。

夢の中の背、その当人にそう問われる。

それにカツラギエースはそれとなく誤魔化して、いつも通りに気のいい友人を演じた。

 

「ごちゃごちゃ考えるよりさ、単純にいこうよ」

「この世界では───いちばん速いヤツが"正義"だ、って」

 

普段なら一笑に付す言葉も言う人間を鑑みれば説得力の塊でしかなく。

そして何よりも、あの背中(ゆめ)を見た後だと否定する気にすらなれない。

 

「……そうだな!」

 

だから、カツラギエースは笑って返した。

 

 

"あの日"、掴めなかった背がこんなにも簡単に触れられる位置にあることに、はじめは戦きと確固とした怒りを感じていた。

それはまるで夢物語のヒーローが現実に現れてきて、幻滅した時と…似たような心地だったのだろう。

しかしそれも一瞬のこと。

すぐにカツラギエースの心には歓喜と興奮が湧いた。

焼き付くほどに焦がれていた相手に再会できたのだから。

けれど。

ただ一つだけ不満があるとすれば、

 

「…いや、何度考えてもキミと会った覚えは、ないなぁ」

 

自分はこんなにもお前に焦がれていたというのに。

どうしてお前は自分のことを覚えていないんだ?

……と、いったところだろうか。

まあ、仕方がないといえば仕方がないことでもあるのだが。

 

「…………」

 

だって、自分は"あの日"の自分ではないのだ。

"あの日"の姿かたちなど見る影もないから。

だから仕方ない、と心を落ち着かせようにも。

 

「…」

 

周りに話しかけられるままに、にこやかに笑っているその背を見てズクリと胸が疼く。

ああ、本当に。

ずっと見ていた夢の中と()()

けれども…それが憎らしくも、嬉しくて。

 

「なぁ、」

 

呼んだ、ひとひらの名はひどく熱に溢れていた。





【世界制覇の大エース】:
カツラギエース。
"あのころ"の記憶がある。
ずっとずっと"あの日"に見た背に焦がれては簡単に触れられる距離に至った現状にモヤッとしたり歓喜したりと忙しい。
またその背を捕まえたいと思っているが、捕まえたら捕まえたで『違う!』『こんなのお前じゃない!』って言い始めそうなのが…。
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