さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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どこかの‪√‬にて。
何も気づいていない者と、気づいている者たち。



いかないで

昔から、何故か海が好きだった。

けど、親や友人は僕を海から遠ざけた。

どうしてか、とんと理解ができなくて何度も何度も問いかけても返ってくるのは曖昧な、答えとも呼べない言葉だけ。

 

──海は危ないだろう?

──それに、お前はろくに泳げないじゃないか。

──だから、海には近づくなよ。

 

そんなことを言われても、「ハイそうですか」と簡単に納得できるはずもなく、僕はバレないようにひとりで海へと通い続けた。

誰もいない深夜の海辺を歩くこともあれば、昼下がりに自転車を走らせて、遠い遠い人気のない浜辺まで遊びに行ったこともあった。

 

 

…さざなみの音が聞こえる。

一定で、穏やかで、まるで…大きな生き物の鼓動のごとく。

それはどこか心地よく、ずっと聞いていたい音でもあった。

けれど、その音を聞くたびに胸の奥がざわついて仕方がなかった。

 

──あぁ……嫌だな。

 

漠然とした不安感に襲われて、思わず胸元を押さえる。

何か大切なものを忘れているような気がしてならない。

 

海のことを考えるたびに、誰かに呼ばれているような心地になる。

でもそれが誰なのか分からなくて……。

ただ、ひどく寂しくなってしまって……。

そんなことを考えながら歩いていたせいだろうか。

ふと顔を上げた瞬間、目の前に広がる光景を見て、僕の足は完全に止まってしまった。

どこまでも広がる青い空。

そして、視界いっぱいを埋め尽くす海の水面。

 

「ぁ」

 

一瞬で。

呑まれる、と思った。

藻屑のように呆気なく。

深い青の中へ消えてしまうんだって思った。

でも……不思議と恐怖心はなかった。

むしろ安心していたように思う。

だってここはこんなにも静かで、穏やかで、とても気持ちが良い。

このまま目を閉じれば、もう二度と目覚めなくてもいい…。

そんな。

そんな考えに、スっと至ってしまった…が、

 

「ぅ゛っ!?」

 

ぎゅ、と首が絞まる。

格好としては、後ろから誰かに首根っこを掴まれた形だ。

何事だと慌てて振り返ると、そこには。

 

「え…。と、父さん!?!?」

「はァ、…ックソ。朝っぱらからどこ行くのかと思ったら…!」

 

息も絶え絶えで、額に青筋が立っているヒカルイマイ(父さん)がいた。

その様子から察するに、相当走って追いかけてきたらしい。

けどまさか、海に近づこうとしただけで父さんがここまで血相を変えるとは思いもよらなかった。

一体どうしたっていうんだ、と思考しようとしたのも束の間。

 

「と、父さ…?」

「よか、ったぁ…」

 

ヘナヘナと崩れ落ちる父を慌てて支えると、僕よりひと回り大きいはずの身体が。

 

(…え?)

 

微かに。

本当に微かに、だが。

───震えて、いた。





海は、『かえり』を待っている。
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