ジュニア期のある夏、8月中旬の話。
───バイトをしないか。
その言葉にうら若き少女たちが諸手をあげて飛びついたのは言うまでもない。
「……で、どんなバイトなの? 給料が凄くいいみたいだけど結構キツい感じ?」
「あーっとね」
実質雇い主といってもいいシルバーバレットが説明を始める。
曰く、このバイトが行われるのは彼女の母方の本家がある田舎町で。
曰く、ウマ娘しかできないバイトであるため人手が多い方が嬉しい。
曰く、夜にするバイトなのでそれ以外は自由時間。食事もバイトの要員用に山の幸・海の幸がふんだんに使われたものが出されると思われる…と。
「…って感じなんだけど、大丈夫かい?」
「へぇ~面白そう! 」
「私もやりたいですっ!」
「それって何人でもいいの?」
……というわけで、そこそこの参加が決まった。
そうして、バイト先にたどり着き美味しいご飯に舌鼓を打って、何度もこのバイトをしたことがあるシルバーバレットを先頭に白い提灯を持ちながら夜道を歩く。
「まぁ…たしかに都会と比べれば怖いかもしれないね」
田舎とは聞いていたがここまでとは。
該当ひとつない、山がほど近いその町は丑三つ時という時間もあって恐ろしいほどにシンとしている。
そこをザクザクと草履で歩く音だけが響くのだ。
しかし、それも慣れてしまえば気にならないものらしい。
みんな思い思いに会話をしながら歩いている。
「でもさ、こういう雰囲気嫌いじゃないよアタシは」
「うんうん、なんかワクワクしちゃうよね」
「わかるぅ~!」
「……」
着慣れない濃い緑の着物。
そして顔を隠す布面。
それが非日常感を高めているのか、皆いつもより声が大きい気がした。
「……ん?」
ふと、前を歩いていたシルバーバレットが足を止める。
それにつられて他の娘たちも立ち止まった。
『どうしたの?』と口々に問われる言葉に彼女は口を開く。
───ここからは、足早に。
ひゅう、と軽い音に乗せて海風が香る。
前を歩く小柄な背に、今はただ従うしかなく。
問うことすらも許さないと言外に示すその背に何も言えないままついて行くしかなかった。
「……よし、いいよ」
やがてたどり着いた場所は、町の境らしき、だが寒々しい原っぱの前。
よくよく目を凝らしてみればそこが昼に紹介されたシルバーバレットの母方の家が管理をしているという土地に合致し。
「これで職務は終わり。さ、早く帰ろうか。」
───何も聞かないように、喋りながら。
掲げた白い提灯がぼやりと光る。
「今年も、無事"お迎え"できてよかったよ」
僕:
シルバーバレット(ウマ娘のすがた)。
実質雇い主。
トレセン学園に入るまで、このバイトをしていたのは彼女のみである。
濃い緑色の着物を着て、白い提灯を持って、"お迎え"するバイト。
…バレぬように大声で話すことや、バレかけた際は走ることが推奨されている。
───"還り"を待ってる方々がいるからね。ならちゃんと還さなくちゃあ、…ね?