さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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その背からはうっすらと潮のにおいがした。



しおさいの夜に

夏合宿に来た。

トレセン学園の夏合宿というのは海沿いにある年季の入った趣深い合宿施設にて7~8月-俗にいう夏休み期間-に心身を鍛え上げるというものだ。

普段の練習ではなかなか出来ないような、トレーニングを行えるため合宿を行う前と後で驚くほど様変わりするものも中にはいたりする。

がしかし。

 

「どっこもかしこも電波わり〜!」

 

…この合宿所、あまりにも通信環境が悪く。

それを事前に知っていた者たちで持参していたカードゲームや何やらで暇潰しをしようにも直ぐに飽き、または次のハードな練習に備えるために寝る者が続出し…。

 

そんな日が珍しくもなんともなくなったある日、寝付けないひとりのウマが海沿いを散歩がてらフラフラと歩いていた。

 

(うーん……やっぱりこういう時は海辺っていいナ)

 

潮風を浴びながら浜辺を歩くそのウマはどこか眠たげな目をしているが、それでもなお、その足取りはどこか明確な行き先を目指して進むようで。

そんな折。

 

「ねぇ」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

唐突に、声をかけられた。

誰もが寝静まった深夜にかけられた声に驚き振り向くとその先に居たのはひとりのウマだった。

 

「あぁ、ごめんね驚かせて」

「え、あ…」

 

背格好はひどく小柄。

髪はところどころ跳ねて…。

 

「キミ、トレセン学園の生徒だろ?」

「はえ!?」

「だからこんな遠くまで来てひとりで帰れるかなぁ?って」

「ええっ!?」

 

そのウマに言われた通り、辺りを見回してみると確かにまったく知らない景色だった。

ぼんやりと歩きすぎにも程があると自分で自分にツッコミを入れたくなるくらいには見知らぬ場所に来ていた。

 

「まぁでも、ちょうど良かったよ」

 

そう言ってその小柄なウマは笑う。

 

「元の場所まで、案内してあげよう」

 

 

その小柄なウマもかつてはトレセン学園に通っていたらしい。

キラキラと星が輝く夜空の下、ふたり並んで砂浜の上をゆっくりとした歩調で進んでいく。

 

「いやぁ、まさかこんなところで後輩に出会えるなんて思ってなかったからさ〜」

「そ、そうなんですか」

「うん。それにしても懐かしいなぁ……もう5年以上経つんだもんなぁ」

「へぇ…」

 

そう懐かしそうに話す小柄なウマはどうみても年相応とはいえない若々しさをしていて。

見た目だけなら自分よりも少し上ぐらいだろうかと思うのだが、実際はもっと歳がいっているように思える。

 

「あの……おいくつですか?」

「僕かい?さてね」

「……はい?」

「同期だったウマとも会わなくなって久しくてさ。別に年齢確認とかいる時間とか場所にわざわざ出歩くでもなし」

「は、はぁ…」

「さて、着いたよ」

 

気づけば合宿施設の前に着いていた。

 

「案内してくれて、ありがとうございました。…あれ?」

 

けれど。

顔をあげると、もうそこには誰も…。





この季節ってのはどうにも人を惹きつけやすいらしい。
だから。

───もう二度と、こっちに来ないでね。
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