夏にだけ会える
暑い夏のことだった。
惚れ込んだ女の、その実家で半ば同棲というか同居し始めた男はその日もその日とて日課の畑仕事をしていた。
個人的な畑、といっても元はそこそこの人数がいた家の畑。
男ひとりで管理するには中々骨が折れる場所ではあったが、生まれて初めての、自分の好きなようにしていい土地に男は童心に返ってはしゃいでいたのだ。
「あー……」
だからだろう、そんな声を漏らしたのは。
汗だくになりながら鍬を振るい続けた男が、ふとその手を止めたのは太陽が一番高い位置まで昇った頃だったろうか。
気付けば額から頬へと伝う雫が煩わしいくらいで、首にかけていたタオルも汗を吸いすぎて冷たいぐらい。
そんな時、
「精が出ますね」
聞こえてきた声に男は振り返った。
するとそこには黒い着物を着た美しい女。
「そうっすか」
「えぇ」
男は突如として現れた美しい女を前に動揺しなかった。
まぁそれまで帽子を被っているとはいえ、炎天下の中での作業であったから思考が鈍っていたのかもしれない。
けれども、それを差し引いても男が見る目の前の女は…警戒には、値せず。
「あの、」
「はい」
「あそこの家の、家族は元気ですか?」
「…知り合いですか?」
「まぁ、…知り合いといえば知り合いですけど」
「そうですか」
女が指さした先は、いま現在男が暮らしている未来入婿となる家で。
その様子からこの女は親戚かと考える男。
その日から男と女はたびたび顔を合わせるようになる。
「…こんな暑い中にいないで、家の方に行っときゃいいんじゃないですか?」
「いいえ、私はあなたと話したいので」
女が語るに。
男が今住んでいる家の者たちを随分と親しげに呼ぶさまに男は興味を持ったらしい。
そしてまた、女の語るこれまでにも。
「へぇ、普段はここよりずっと遠いところに住んでるんですか」
「はい」
「どんなところで?」
「田舎ですよ、本当に何もないような。でも…水辺だけは綺麗な場所でして」
「そうなんですか。俺も行ってみたいですね」
「是非来てください。…とはいってももっと後のことになるでしょうが」
女との会話は楽しかった。
おだやかな女。
静かで、聞き上手で。
それでいてたまに見せる微笑みがとても…。
「………………」
だからだろうか、男はある日を境に女の姿を見かけなくなったことに寂しさを覚えるようになった。
まるで、母のようだった
*
「…あの子なら、リリィのことを任せられるって?そりゃあそりゃあ」
ひとりだけの部屋であるのに、話す相手がいるかのようにホワイトバックが呟く。
「キミが言うなら、そうなんだろうね」
───キティ。
女性:
黒い着物を着た女性。
静謐な雰囲気を持っている。
ある家に縁ある存在らしく、近い未来にその家に婿入りする男と話したかったらしい。
それはそれとして、その正体は……?