出会ってるんだよなぁ、コレが…。
そのウマと出会ったのは、単なる偶然だった。
何となく入った居酒屋にて、さまざまな人に囲まれながらワイワイガヤガヤと楽しそうに騒いでいた声。
「そういやさァ、誰かいい装蹄師知んない?」
少し酔い気味の明るい声音がそう紡いだのを聞き逃せなかったのは…。
*
「来たぞ」
「お〜、久しぶりィ」
「また面倒な依頼寄越す気か?」
「そのぶん料金は弾んでンだろ」
「そうじゃなきゃこんな依頼受けないっての」
装蹄師をし始めて、しばらく。
自分の作る蹄鉄はどうやら『ドクソウテキ』ってヤツらしく、依頼も中々入ってこない日々の中で。
このウマが、気づけばお得意さまという存在になっていた。
「で?今回はどんな感じなんだ?」
「あー……っとォ……まぁ、ちょっとした頼み事っつぅかさァ……」
いつもならハッキリと言うくせして、今日に限って歯切れが悪い。
……何かあったのか?
そんな疑問を抱きつつ、続きを促せば。
「もうちょっと…壊れにくいのを」
「はァ!?」
「わ、分かってるよォ!前だって随分な頼みしたってことぐらいは!!…でも、まさか蹴りひとつで壊れるとは思わなくて」
「……で、出来るだけ早めにって?」
「…ウン」
いわく、この家系に生まれるウマは総じて脚力が強いらしく。
それは生まれつき備わる能力のようなものであって、どうしようもないことではあるというが、蹄鉄を幾度となく買い換えるのも…とのことらしい。
「だからって蹴るか普通!」
「そこに関してはホント申し訳ないとしか言えないんだけどさァ!!」
「……ったく」
とはいえ、俺だって職人だし。
蹄鉄を作るにはそれなりに時間を要するもので。
それを毎回毎回こうやってチャカポコ簡単に壊されると、なァ…?
「ぇ、あ…、あの、ザンさん…?」
「なんだ?」
「ご、ご勘弁を…」
「嫌だね」
*
その装蹄師と出会えたのは偶然だった。
よく訪れる居酒屋にて、ボヤいた己に「なら俺に頼むか?」と声をかけてきた自分よりも幾分か若いウマ。
聞くに個人で装蹄師をしており、あまり仕事の依頼も受けていないようで。
それならば、とその言葉に乗ったのだけれど……。
「お前の蹄鉄も作らせろ」
「え?」
「お代は娘さんの分だけでいいから」
「え、いやぼくのは別に…」
「作 ら せ ろ」
「…ふぁい」
何がどうしてそうなったのか。
娘の分だけでよかったのに、父親であるぼくの分まで蹄鉄を作成されることになってしまった。
たしかに、依頼人の話をよく聞いて、それに合わせた蹄鉄を作ってくれていることはよ〜く分かっているけれど。
「さ、どれがいい?」
「えぇ…」
目の前に広げられた試作品の山に思わず慄く。
本来の依頼人であるはずの娘に対する試作品よりもずっとずっと多いソレに、冷や汗が流れていくのを感じた。
「これなんかどうだ?耐久性もあるし、デザインもいいと思うんだが」
「う、うん……そうだねぇ……」
「よし履け。全部履け」
「ちょ…!?」
ぼくは正規の選手でない、ただの一般人なのに。
そりゃあ蹄鉄はよく壊しちゃうけれども、…ここまで熱意を傾けられるほどの人間じゃないのに。
「綺麗だな」
丹念にマッサージされる脚にひく、と震える。
…そういえば、いつからだろう?
「傷ひとつでも作ったら、」
───容赦しねェからな。
「わ、かってる、よ」
───────
─────
───
…脚だけじゃあ、ねェっての。
ザンさん:
自身の作品を『我が子』と評する系【白の一族】お抱えの装蹄師。
作る蹄鉄はそのどれもがたったひとつの特注品であり、値段相応にそう壊れる強度ではない…はずなのだが【白の一族】自体の脚力がね〜…。
またホワイトバックは知らぬことだが、ザンさん自体も元はとても有名な競走バであったらしい。
…ま、【神賛】だからねぇ。
依頼人:
ホワイトバック。
ある時ひょんなことから出会った装蹄師・ザンさんに訳も分からぬほど気に入られ、気づけば自身の脚そのものを『
でもザンさんの腕を信頼しているのは確かなのでメンテナンスに呼んだりしては…なのだとか。