さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

418 / 1416

『よかった』って、今日も笑う。



危うい僕らの"ヒーロー"

トロッコ問題やら1を切り捨て100を救うとかいう思考実験があるだろう。

それを考えると我らが父はトロッコを自分へ向かうように舵を切るし、100を救うために躊躇なく自分(1)を切り捨てる。

自分の影響力に何の自覚も、未練も、執着もないからこそできる決断だ。

そして、それは同時に僕らへの愛情でもあるのだろうけれど。

 

「……まあ、あの人がそういう人なのは今更ですが」

 

そう言って僕は苦笑する。

この家においてあの人は王であり、神である。

その言葉は、あの人が『黒』といえば白も黒くなり、そして、その白自身も父の言葉に呼応したように『黒』に変わる。

だからこそ、僕たちはあの人を慕い、尊敬しているわけだけど……。

 

「でも、今回の件に関してはちょっと……」

 

あの人の行動原理はいつだってシンプルだ。

それは『僕たちの為』ということ。

子どもたちのためなら何だってできる、と言えば聞こえはいいがそれは父自身が己の身の安全を確保できてやっと成立する話であって、それを度外視した無茶はしちゃいけない。

だが、

 

「無事でよかったよ」

 

自分の人気が、『アイドル』じみたモノだったのに自覚はあるにせよ、ここまでとは思わなくて。

それを咄嗟に庇われ、軽傷ではあるにせよ包帯やら湿布やらで肌とは別種の白に染まっている父に微笑みかけられた時、僕の胸中に去来したのは安堵ではなく焦燥感だった。

 

(ああ……)

 

この人に何かあったらどうしよう?という恐怖心。

そして、同時にこう思ったのだ。

自分がもっと強ければこんなことにはならずに済んだんじゃないかと。

小さい身体。

ずっと、大きいと思っていた体が今はこんなに小さい。

いや、自分が大きくなったのだ。

…大きくなった、のに。

 

「ああいう荒事には慣れてるからね〜。痛いのも慣れてるしヘーキヘーキ。逆にハイセイコに何もなくてよかったよ」

 

なんて、いつも通り笑う父の顔を見てると余計に情けなくなる。

守られるだけの存在であることが。

だから、決めた。

強くなろうと。

いつか、父が危ない時に真っ先に助けに入れるくらいに強くなってみせると。

そんな決意と共に僕は拳を握った。

 

 

反射的に体が動くのは、もはや癖だろう。

変なまでの危機察知能力が働いているのか、危機的状況に陥る前に回避行動を取ろうとするのは最早本能に近い。

ただ、今回ばかりはその判断は『受身』になることを選び。

 

「っ゛、」

 

衝撃を予想していたはいたが、現実に受けるとこんななのか…と空を見上げながら現実逃避。

視界の隅には呆然としている()()()()()()()()我が子と喧騒。

 

(体いったぁ…)

 

そして、───ブラックアウト。





僕:
シルバーバレット。
子どもが標的になると危機察知能力が庇う方向になるパパ。
なのでヒエッヒエになる子どもたちがいっぱいになる。
なお本人は『子どもが無事でよかった〜!』するばかりの滅私系パパなので子の心親知らずしている。
体重が軽いので吹っ飛びやすいし、また痛みに鈍い。
…だが、それでもニコニコと。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。