さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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やっと、見てくれはしたけれど。



それは『望んだ』顔だったのか。

その系列は、レースの世界にひとたび足を踏み入れると『引退』という一区切りに辿り着くまで気を張り続ける。

いや、レースに関わることから少し離れて、オフや帰省などすれば少しばかりは気を弛めたりするが、けれど完全にユルユルになることはない。

それはどこか危機感に迫られる野生の動物のようでもあり、またある種の強迫観念にも似て……。

 

「…どうしたの?サンデー」

「いや、」

 

その話を知ると『なるほど』と思った。

自分と出会った当初のコイツは目を爛々と輝かせるばかりで表情はほぼ動かず。

「キミがはじめて出来た友だち!」と言いながら、事ある毎に関わってくる同期周辺の奴らのことを「知り合い」とだけ言葉少なに評する。

そんな態度も今となってみれば納得出来るものではあるのだが……しかし、

 

「なんか変なこと考えてるでしょ?」

「いんや別に……」

 

変なところで察しがいい。

そして妙に鋭い。

いわく、視線や言葉尻でそれとなく察することができるとかなんとか。

もはや探偵とかそういうのになれるんじゃねぇかな、とすら思う。

そして、その察しの良さを大して動かない表情の下で張り巡らせていたと考えると、…本人が気づいていない深いところまで理解されていることも有り得るのではないか、と。

だから、こんなにも手綱を握るのが上手い。

それまでは犬猿のように争っていたというのに、それとない関わりで気付けばまとめあげられて。

 

「お前、世が世なら国を裏で操ってそうだな」

「いきなりどうしたのさ」

 

……まぁ、それもこれも全部俺の勝手な妄想に過ぎないわけだが。

ただ、ひとつ確かなことは。

 

「なんでもねーよ」

 

コイツには敵わないということだけだ。

 

 

笑わないヒト。

誰も見ないヒト。

そう、認識されていた人間がある日突然感情を表に出して、また年相応にバカをやり始めたと知れば…ぐずりとした感情を抱く者は抱くわけで。

 

───自分の方がずっとキミとの付き合いが長いのに。

───どうしてソイツなんだ?

───歳下がいいなら、自分でもよかったでしょう?

 

そういった"ぐじゃぐじゃ"が渦巻き始める。

もちろん当人に直接ぶつけるような真似をするわけではない。

そういったものは胸の奥底に押し込んでおくものだから。

でも、それでも……ふとした拍子に漏れ出てしまうことがある。

特に、

 

「どうしたの?」

 

何も知らぬ本人が、ふわりと穏やかな顔を使()()()()してきたとなれば。

 

「……っ!」

 

思わず……してしまったとしても仕方がないと言えるだろう?

…冗談だよ。





僕:
シルバーバレット。
引退(それ)まではニコリともしなかった癖に。
引退してやっと気を弛めることができて、友だちも作り、楽しく過ごし始めたすがた。
その姿にぐちゃぐちゃの感情を抱かれているとは露とも知らず。
……まぁ、気づかない方がいいこともあるので。
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