さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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静謐。



広くなった箱庭

「あ〜」

 

子どもたちがお弁当日のプリントを持って帰ってきた。

その渡されたぶん束になったソレを別のところに置きながら『仕込みしなくっちゃ』と思考しはじめる。

はじめは炊飯器も冷蔵庫も普通のものだったが、家族が増えるにつれ両方業務用になって。

今ではすっかり慣れたけど。

 

「ううん、壮観」

 

早起きして、仕込んでいたものをテーブルの上に並べられている色とりどりのお弁当箱に詰めて、冷ます。

そうしているうちに起きてきた子どもたちがそれぞれのお気に入りの場所に座っていく。

 

『おはようございます……』

『おーい、起きろよ〜』

 

眠そうな顔で目をこすっている子や朝から元気いっぱいの子も。

それでもテーブルの上に広げられたお弁当箱の群れを見止めると一斉に目がキラキラしだすのだから思わず笑ってしまうけど。

 

「はいはい!みんな席について!」

 

パンッと手を叩いて声をかけると全員が慌てて自分の場所へと座る。

そして各々ご飯を食べ始めるのに「食べ終わったらお弁当箱包んでね〜」と告げ、洗い物を始める。

するとすぐにお腹一杯になり満足したらしい子どもらが食器を流し台まで運んできてくれるのだが、それがまた可愛いのだ。

 

「ありがとう〜偉いねぇ」

 

褒めると嬉しそうにはしゃぐ姿もまた愛くるしい。

 

「いってらっしゃい」

 

 

思えば大変な頼みごとをしていたんだろうなぁ、と"使う"よりも"空く"ことの方が多くなった冷蔵庫を見やる。

あれだけいた家族も、ほとんどが自立して久しく。

あれだけ騒がしかった家も、太陽の登っている内は変わりがなくとも、日が沈めばひっそりとして。

でも寂しさはない。

だってあの人は今もここにいるもの。

 

「ただいま帰りました」

「あぁ、おかえり」

 

ギョッとするぐらい、真っ白な着流しが似合うその人。

近くでようよう見てやっと、老けていることが分かるその人は、今日も幼い子らの面倒を見ていたようで髪が少しばかりボサボサだった。

 

「…ご飯、どうですか?」

「ん〜?あぁ、作ってあるから食べていいよ」

「いや、」

「僕は作る途中につまんだからだいじょーぶ」

 

ヒラヒラと手を振るさまは、どこか霧のよう。

元から薄かった体つきとか雰囲気が輪をかけて…。

 

「ちゃんと寝てくださいね……」

「分かってるよぉ」

 

いつものように笑う姿に、それ以上何も言えなくて僕はキッチンへと向かった。

もうずっと前から、こうなのだ。

僕が家を出てすぐの頃はまだ良かった。

まだたくさんの家族がこの家に暮らしていたから。

けれど。

 

「お風呂も、ちゃんと入るんだよ」

「…はい」





家:
だいぶデカい。
なので家具なども必然的に多い。
がしかし、最盛期を過ぎてしまえばどこか寂しいくらいにはひっそりとしてしまっており。
故にたったひとりで暮らすには、大きすぎる場所に…。

───まぁ、ひとりには慣れてるけどさ。
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