さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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荒々しさの欠片もなく。



やさしいうた

パチパチパチ…。

反射的に、本能的に、拍手をしてしまうと「いつからいた!?」と先輩に詰め寄られた。

 

「多分…歌い始めから?」

「言えよ!!!!」

 

どうやら恥ずかしかったらしい。

顔も耳も、首まで真っ赤にした先輩に「天使みたいでした」と率直な感想を述べればアイアンクローをキメられ。

痛いですと言えばパッと離されて、その隙に距離を取る。

 

「あーもう!帰るぞ!」

 

そう言って歩き出した背中を追いかけて横に並べば、少しだけ歩調がゆっくりになった気がする。

こういうところは可愛いんだよなぁ…なんて思いながら、「今日のご飯アレが食べたいです」とかリクエストを。

 

「…お前な」

「いいでしょう?」

「はァ、」

「ひとりにするとろくなモノ食べない先輩が悪いんですよ」

「わぁったわぁった」

 

先輩は、歌わない。

いや、さすがにウイニングライブ等ではちゃんと仕事をこなしていたようだが舞台を離れると、とんと。

鼻歌すらも歌わない徹底ぶりに最初は驚いたけれど…。

 

(本当に、)

 

綺麗だった、と思う。

きっと、あんな感じに歌って、あやしているんだろうなぁと暮らしを感じさせるような歌声。

 

「いいですね」

「何が」

「先輩の歌であやしてもらえるの」

「お前…なに歳下に」

「だって羨ましいんですもん、本気で」

 

ちょっと辛めなカレーに舌鼓を打ちながら言えば、先輩は苦笑しながらスプーンを置いた。

 

「オメー、もう食べ終えてんだろ。皿浸けろ」

「あ、はい」

 

そんなこんなで。

先程の話も忘れたように、ぼうっとテレビを眺めていると「飽きた」と電源が落とされ。

 

「ん」

「…なんです?」

「寂しんだろ」

「へ?」

 

ほら、と広げられた腕にどうすればいい?と固まっていればそのまま引き寄せられて抱き締められる。

 

「せ、せんぱい……」

「今日だけだかんな」

 

ぽん、ぽん……と背を叩きながら優しく撫でる手つきに気づけばゆるりゆるりと、微睡んで。

心地好さに身を委ねるように目を閉じれば、頭上からクスリとした笑い声が落ちてきた。

 

「寝たか?」

「……ねむくなんかないれす」

「嘘つけ、呂律回ってねぇぞ」

 

ふわりと笑う気配と共に頭を撫でられ、「担ぐぞ」なんて言葉と共にぐわんと視界が上がるもそこで目が覚めるなんてなく。

 

「…おやすみ」

 

 

下のきょうだいも時々こういう時があったなぁ、と考えながらシャワーを浴びる。

後輩は元より甘え上手だけど、今日の甘えは…何だかいつもと違った気がしたから。

 

「俺の歌なんざ褒めるの、お前ぐらいだよ」

 

…あ、ちゃんと髪乾かさねぇと。





先輩:
シルバアウトレイジ。
必要にかられないとしないだけで歌は普通に上手い。
けど意識をちゃんと切り替えないと幼い頃から下のきょうだいにねだられて歌っていた頃の癖が消えずやさしい声になってしまうとか。
…でも褒められたのは満更でもないらしい。

後輩:
【飛行機雲】。
甘えるのが上手いし、甘えている風に見せてひとりだと生活を疎かにする先輩の手綱を握っている。
少しずつ少しずつ、先輩のことを知れるのが嬉しい。
…ね?可愛い後輩でしょう?
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