さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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君の帰りを、待っている。


『さよならはまだ言えない』

「また日本でな」

 

日本の悲願をすべて勝ち取り、シルバーバレットが海外遠征から帰国することとなった。

先にシルバーバレットが乗る飛行機が日本へ向けて出て、その後に僕含めて人間が後を追うように飛行機に乗って帰る予定になっており、引退式は派手にやろうだとかそんな話を僕たちはしていたのだが、

 

「え…?」

 

帰国して伝えられたのは、シルバーバレットが乗っていた飛行機が墜落したということで…。

 

 

まだ、予後不良であったのなら、彼の死に対して諦めがついた。

まだ、飛行機の墜落した場所がどこかの土地なら、その場所の土を持って帰って弔うこともできただろう。

 

だが、シルバーバレットが乗った飛行機が落ちたのは海上で。

シルバーバレットに関してのものは、何も残らなかった。

たてがみも、骨も、何もかも。

立派なお墓が立てられたけれど、そこは空っぽ。

 

僕はというと、彼の死を受け入れられなかった。

あんなに元気だったのに、どうしてという気持ちが抑えきれなかった。

どんな不幸でも乗り切ってきた彼だから、すぐにひょっこりと帰ってきてくれるのではないかと、ずっと、思って。

 

 

バレットが帰ってきたら、騎手を辞めるつもりで彼の妹の世話を見た。

シルバフォーチュン。

彼よりも体格が隆々としているお嬢さんだったけれど、その顔立ちは全妹だからか、彼によく似ていた。

彼女に重賞をいくつか獲らせて引退させ、次に出会ったのは新しい彼の弟だという"サンデースクラッパ"。

 

サンデースクラッパは綺麗な黒鹿毛で、僕は少しばかり彼を思い出したりした。

サンデーは彼よりも怯えからくる気性のせいで初めは難儀したけれど、慣れると甘えてきたりして可愛い子だった。

サンデーも彼と同じようにブリーダーズカップ・クラシックを獲り、それ以外にもアメリカのダートG1をいくつか獲って、現地で種牡馬入りして。

 

…そこまでしても、彼は帰ってこなかった。

彼が帰ってこないからサンデーが引退したあとも、僕は騎手を続けようとしたけれど、交通事故に遭って断念。

 

引退後は、調教師という道もあったがどうにもその道に進む気が湧かず隠遁することにした。

 

 

…思い返せば、僕の人生はシルバーバレットを中心に回っていたように思う。

ろくに結婚もせず、彼と共に夢に向かって邁進した日々…。

 

「ねぇ、バレット」

 

今、僕はね、キミに関しての本を書いているんだ。

キミは恥ずかしいだとか、言うかもしれないけれど僕がキミのことを忘れたくなくて書いているものだからどうか許してくれ。

 

「タイトルは、そうだな……」

 

 

 

 

『さよならはまだ言えない』

 




騎手くん:脳みそがメタメタ。SAN値がヤバい。
僕を亡くしたあとの彼は夢心地のような感じで記憶があってないようなものになっている。
騎手引退するまでの数年の騎乗は『神がかり』と称された。
最愛で最高の相棒である僕の死を受け入れられず、一度は後追いしようとしたこともある。

騎手を引退したあとに、僕との日々を綴った『さよならはまだ言えない』を執筆した。

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