さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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注げ。



底なしの情

『ちょっと疲れちゃったんだろうなぁ』と思っていると、どうにもご機嫌ななめなままに物が飛んできたのでひょいと避ける。

大概は良い子の良い子の我が長男坊であるけれど、時折こうして参ってしまうことがある。

 

「ぐずっ…う゛ぅ〜、」

「ハイセイコ」

「おとぉさん…」

「ヨシヨシ」

 

かつての、まだ引き取った当初の頃のように。

夜が怖いと言っては泣き、お父さんと一緒じゃないとイヤ!と駄々をこねては泣いたあの日と同じように、ぐずる息子を抱き締めて頭を撫でたり背中をさすったりする。

そうしてやると少し落ち着いたのか、胸に頭を預けたままスンスン鼻を鳴らした。

 

「……ぼく、もういらない?」

「そんなことないよ」

「なら何で!ぼくがお父さんにいちばん初めに見出されたのに!いちばん初めに見出したんだから僕がいちばんすごいんでしょう!?なんでなんでなんで!?!?!?」

「……うん、そうだねぇ」

「じゃあなんで!どうしてみんなばっかり!!ぼく以外なんてただの()()()なのに!!!!」

「うん」

「ぼくがいちばん頑張ってるもん!いっぱい勉強したし、運動もたくさんやった!だからぼくがいちばんなんだよね?いちばん偉くて、強くて、賢くって!」

「……そうだね、ハイセイコは誰よりも頑張り屋さんだよ」

「だったら!!!」

 

ぎゅうと抱き締めた腕の中で、その大きくなった身体を震わせながら叫ぶように言う。

 

「……ぼくが一番にならないとおかしいじゃんか!!!」

 

───ああ、この子は。

こんな風に思って生きているのだなぁと思うと同時に、こうなるまで気付いてあげられなかった自分が不甲斐なくて仕方がない。

出来るだけ目をかけるように努めてはいても、あれだけ多くの弟妹を纏めあげるこの子の気苦労は如何程ばかりか。

…なんて言っても、それは上辺でしかないのだろうけど。

 

「あいしてるよ、ハイセイコ」

 

愛しい愛しい僕のシロガネハイセイコ(我が子)

しかし、人ひとりに注ぐには…僕の『愛』は底なしで。

父母のようにお互いに愛して、お互いを大切にできれば話はまた別だったかもしれないけれど。

注ぐ『愛』の許容量が分からない僕は、きっと壊れるまでそれが分からぬまま注ぎ続けるだろうから。

だからどうか許しておくれ。

僕は愛するほどに、愛したモノを壊してしまうんだ。

だって、ほら。

 

『 バ ケ モ ノ ! ! 』

 

僕は、僕の愛した世界に───。

 

「……」

 

脱いだ靴は、誂えた倉庫の中で埃を被って転がっている。

もう二度と履かなくなった靴。

 

「…なんてね」





僕:
シルバーバレット。
愛することはできるけど、愛した相手の許容量を把握することができずに壊れるまでそれが分からない。
【一族】特有の濃ゆい『愛』をドボドボ注ぎまくっていた過去があるが、その過去の苦さゆえに子どもに与える愛はちょっと薄め。
なお一番愛した『世界(モノ)』は…?
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