魅せられ、焼かれた者が多大で。
気づけば『
国あげての『アイドル』というだけでも大変なのに、それが世界あげての、となってしまえば。
「…」
レースには誰よりも真摯で、それでいて握手やサインを求められれば快く応えた。
とはいえ取材は苦手だったので徹底的に避け、時には逃げ回ったところ、いつしか『ミステリアスだ』と人気に火がついて。
レースの時以外はもっぱらホテルに籠ることになって、トレーニングも中々出来なくなって、遂にはホテルに人が押し掛けてくるからと、苦渋の顔でホテルを追い出されて。
そして──、
「そう、ですか」
引退、となっても。
『普通の、一般人に戻ります!』なんて、言えないようになっていた。
ひと目、表に姿を表すとメディア・観客問わずに焚かれるフラッシュ。
狂気と言うまでに押し合い圧し合いで求められる握手にサイン。
最終的には耳カバーや勝負服のネクタイなどが気づいたら無くなっているなんてことも。
…いや、そもそも普段の時から細々としたものがなくなっていたか。
そんな、そんなことにまで、…
───────
─────
───
──『
その報道は瞬く間に世界中を駆け巡った。
『引退』ではなく、『死亡』。
それはつまり、もう『
彼女の現役時代を知る者からすれば、誰もが信じられないことだった。
あの
そんな疑問はやがて、一つの噂へと収束していく。
曰く──彼女は
が、
だから
「───だってさ」
「…誰が漏らしたんでしょう?」
「さぁ?でもURAの職員だろうねぇ。
「そう、ですか」
フードを深く被った小柄な影が、白髪混じりの男と連れ添う。
見遣る街は今日も変わりなく、流れていく。
「はやく、『普通』になれるといいね」
「はい」
……あの日、
だが、それは
そのため、
ゆえに、
「さ、そろそろ行こうか」
「……はい」
手を引かれて歩き出す小柄な影はフードの下で薄く微笑む。
それはかつて『
『
……それでも、いやだからこそか。
あの終わりから一年経った今でも──。
まだ戻れない。
世界中を焼いてしまったから『普通』に戻れなくなってしまった『
気狂いだと言われようが、誹られようが。
たったひとり─────キミの、幸せのために。