あともうちょっとだけ、生きててよ。
初めて産んだ我が子が世界最強になったり、また自らが産んだ娘たちも優秀な子を排出し、自らの名を冠した『ホワイトリリィ系』という流れができて遠に久しくなったころ。
「よォ、元気してっかババア゛ーッ!?」
「誰がババアだ、あ゛ぁ?」
「な、何すんだこンのババア…」と蹲る玄孫-シルバアウトレイジを一瞥し、ホワイトリリィは座り込んでいる椅子に身を寄せる。
…気づけばホワイトリリィはかの【神賛】をも超えた世界長寿記録を持ってしまっており。
流石にギネスブックに登録されているイギリスの輓バには及ばないが、四捨五入すればそのひと回り下…ぐらいの年齢ではある。
故にホワイトリリィは生き字引というヤツであったし、また"かのウマ"を産んだということでどこか現人神のような扱いを周囲から受けていた…が、
「……風邪とか引いてないかババア」
「だからババア呼びはやめろつってんだろ」
「あだぁ!?」
この若造であり彼女にとっては玄孫-シルバアウトレイジだけは周りのようにホワイトリリィを敬うような態度は取らず、こうして年相応の態度で接してくる。
それがホワイトリリィには心地よかったし、またそんな玄孫の来訪を楽しみにしている節もあった。
「で?今日はどうした」
「あー……なんつーかその……」
そしてシルバアウトレイジもホワイトリリィにだけはどこか気を許しており、こうして訪れると何かと、時には叱ったり、世話を焼いてくれる彼女を慕っていたが……しかし今日ばかりはいつものようにズバリと要件を言うことはできずにいた。
「…」
「言えねぇことか?」
見た目は言動は粗野であれ、老若男女困っているヤツは放っておけないし、幼い頃からの教育の賜物で高齢者を敬いなさいと躾られているシルバアウトレイジ(対ホワイトリリィは身内ゆえのじゃれあいである)。
だから、少し先にある自分の引退式に出て欲しいとか、あわよくば何かひと言でもいいから言葉を承りたいとか…そんな気持ちはないったらない!
でも、それでも……。
「ぅ、」
「お?」
「……いや、なんでもねェ」
そうして、伝えようとして。
しかし結局その言葉は最後まで紡がれることなく。
「そうかい。まァいいサ。今日も泊まってくか?」とホワイトリリィも深く追及することはなく、そのまま二人して夕食を食べ始めるのであった。
・
・
・
「…あンの老いぼれが」
ぼた、と涙を流すシルバアウトレイジの手の中にあるのは享年を考えると信じられないほど整った文字列。
まぁ元よりかくしゃくとして、…死んでも死なねぇババアだったとしても。
「頼まなかったろうが、ンなこと…!」
ひと言貰えれば、よかったのに。
それだけで、よかったのに。
死んでも死なねぇババアだって、嘯いてはいたがその体が年々老いて、弱っていることは身に染みていたから。
「…クソ、」
こんな些細なことで、…あの人の時間を削りたくなかったのに。
「あした、引退式だったのに」
───あの、クソババア…!
【白百合】:
ホワイトリリィ。
『ホワイトリリィ系』というラインを成しては50近くまで生きた女傑。
表舞台には出ない生涯だったがその名は今もなお伝説。
だが玄孫である【銀色の激情】の引退式前日に死去。
享年48歳で突然の老衰。
でも最期まで病気や怪我ひとつない超健康体(そして超恵体)だった。
いつも通りのルーティンを過ごし、いつも通りに「おやすみ」と告げて…。
【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
在りし日の祖父みたく【白百合】のことを「ババア」と呼ぶ玄孫。
周りが【白百合】をある種『現人神』のように見る中で「ババア」「ンだとクソガキ」みたいに気安く接していた。
実はツンデレしているがめちゃくちゃおばあちゃんっ子である。
ので…?