さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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諦めるなぞ、できやしない。



望んでいる

「うお、」

 

不意にきた後ろからの衝撃に、振り返ればそこには可愛がっている後輩がいた。

見るからに、拗ねているらしいと分かる耳にヤレヤレと苦笑すると、もっとぎゅう〜と強く抱きしめられる。

 

「おうおう、どうしたよ」

「…せんぱい」

「ん」

 

腹の虫が鳴ったわけでもないが、美味しいものを食べれば何とかなると我が家というか、我が家系の持論を胸に抱きながら後輩をいつも通りに部屋に招待する。

 

「何でも作ってやるよ。野菜とか諸々この前親から送られてきたばっかだし」

 

…そう言っても何もリクエストしない。

あれ?いつもなら嬉々として「○○が食べたいです!」って言うはずなのに?なんて思いながらも、まあ何かあるんだろうと思って特に気にせず調理を進める。

 

「はい、出来たぞ〜。…とは言っても俺の食べたいモンだが」

「…………」

「…好みじゃなかったか?」

「……いただきます」

 

やっと反応してくれたと思ったらこれだもんなぁ。

もそもそ、と食べる姿に覇気はない。

ただ生命活動のために食べているというような風情だ。

 

「……先輩」

「なんだ」

「どうしたら、先輩は」

「おう」

「……なんでもないです」

「おう?…そうか」

 

 

嫌に、目に付いた。

僕が慕うあなたは僕以外にも慕われていて、否が応でも場の中心になる。

…それが、嫌で、嫌で。

そりゃあ、あなたにみんなが惹かれてしまうのも分かるけれど。

確固とした芯のある人だから、寄りかかってしまうのも分かるけれど。

…それでも僕はあなたの一番になりたいんです。

ねえ、せんぱい。

 

「…、」

 

見つめるあなたは、眠っている。

スヤスヤと、何も悩みなんてないというように。

…僕の悩みを、知らないままに。

 

 

あなたはね、先輩。

自分では気づいていないかもしれないけれど、"あのウマ"に関すること以外ではとっても、無関心なんですよ?

"あのウマ"しか、前しか、見ていないから。

それに僕らは憧れつつも、焦がれつつも、…憎くて。

 

(もしかすると、お父さんもこんな気持ちだったのかなぁ)

 

同時に、己が父のことを考える。

己が父のライバルだった人は、先輩のお父さんで。

その人も、その人で蛙の子は蛙というように先輩とどっこいどっこいだったらしいから。

ライバルだからこそ、先輩後輩の僕らよりもお互いのことを知っているだろうし。

きっと今の僕よりも、ずっと…。

 

「せんぱい」

 

起こさないように声をかけてみる。

もちろん返事はなく、ただ寝息だけが聞こえて。

 

「…ぼくだけを」

 

そうして。

もらした言葉は、寝息に呑まれた。





後輩:
【飛行機雲】。
少しナイーブ気味。
先輩である【銀色の激情】を慕う姿はまるで人懐っこいワンちゃんのようだが、内情は…。
こっちもこっちで親が親なら子も子である模様。
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