さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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しかし、そう思うのは───。



"まがい物"は嗤う

「いいなァ…」

 

【日本の総大将】、か。

そう呟いた自身の声は、思わず嗤ってしまうほど掠れていた。

大した経歴もないままに、血筋だけで期待されて挑んだ偉大なる門にて、膝を着いてしまった俺は。

"最悪"には至らないまでも、元のように走ることは絶望的だと診断された俺は。

 

「いいなァ、───日本総大将」

 

ただ、羨んでいた。

誰もが一心にかける声援をどこか画面越しに見るような心地で、同じ文言をレコードのように、ただ。

 

俺への期待は、大体が"あのウマ"由来で。

みんな、"あのウマ"の残した軌跡(奇跡)に盲いてしまったから、希望(ひかり)を見てしまったから。

だから、その輝きをみんな、もう一度見たいんだと、思っていた。

…でも違ったらしい。

 

「だれでも、いいんだな」

 

───俺じゃなくても。

 

目の前には、あらんかぎりの熱狂があって。

それは、俺なんかじゃ到底敵わないような熱量と想いが乗せられたもので。

それがなんだか無性に悔しくて、悲しくて。

気づけば俺は、自分を溶かすよに、人混みの方へと歩を進めていた。

 

 

"綺麗"だと思った。

本当は、そう思ってはいけない類のモノであったのに。

その時、誰もが見惚れていた。

『頑張れ』の声も忘れて。

瞬きすらもったいないと。

その一瞬で潰えるのだと。

 

それはまさしく───"流星"だった。

 

崩れゆく"星"のひとひら。

最後の煌めきを放つように、燃え尽きるように駆け抜けるその姿。

それを見た瞬間、誰もが息を呑んでいた。

 

「……っ!」

 

呼吸なんてしている暇はない。

今この目に映っている景色を逃すわけにはいかない。

そんな強迫観念にも似た衝動だけが心を突き動かした。

そして、"流星"はゴール板を駆け抜けたのだ。

歓声はなかった。

ただ、静寂だけがあった。

まるで時の流れを忘れたかのような刹那の中、たったひとりのウマの姿だけを焼き付けようと、全ての観客が目を奪われていたからだ。

しかしそれも束の間、すぐに怒号とも思えるほどの喝采が響いて。

 

───喝采(それ)は、いったい誰に向けられたものだったのか。

 

 

自らが"星"であることを、本人だけが知らない。

 

「俺が"星"だァ…?」

「ンなワケねェだろ。"星"ってのはなァ、」

 

同じ文言。

きっと、いつ聞こうが変わらないだろう。

何度言おうと、あのウマは信じない。

 

「俺ァ只人だよ。"星"に手を伸ばして、愚かにも『(さわ)れる』って思っちまっただけの凡庸な大バカ者さ」

 

それでも、いつか気づいてくれるだろうか?

貴方が如何にして、()()()"()"となったかを。

それに気づいたとき、貴方はどうするんだろうか。

 

(…でも、)

 

貴方はその"事実"を───。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
ヒーローに憧れていた子ども。
でもそうはなれなかった。
しかし、周りは…?

とか言うて、モンジューさんが「エルコンドルパサー、
キミというウマに出会えたことに感謝を───」
的な独白、その最後の「を──」の部分で88秋天のオグリの如き眼光でヌッとやって来てるんですけどね、コイツ(脳焼きの音)。
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