さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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『あと』を残す。



誰かのために、

それは『(しるべ)』なのだろう。

 

『分かりやすい、()でしょう?』

 

小さく振り向いたアナタが笑う。

そうして、呼び止める声も聞かず去っていった。

 

 

「…」

 

べちゃ、と一歩進むたびに張り付く足の裏にその影は顔を顰める。

()()なるようになって、随分と経ったがそれでもまだ慣れない。

 

「…………っ」

 

足を軽く上げるだけで難儀する有り様に辟易としながら、影はなんとか前へと進んだ。

 

───あの日以来、ずっとこんな調子だ。

煌びやかな世界に飛び込んで、(そら)を目指して。

一足飛びでなんて届かないからこそ、地を這いつくばりながら駆け上がっていくのだと思っていた。

だが、現実はどうだろうか?

 

「…でも、『(しるべ)』にはなっているのかな?」

 

よく目立つ色が、跡を残す。

きっと誰もが目を見張るような色。

自分がそこを歩んだ跡で、誰かの目印になっているならいいと思う。

…"あの人"のように。

そんなことを考えて、ふっと笑みを浮かべた。

 

「……行かなくちゃ」

 

そして、大きく踏み出した足は、しっかりと地面を捉えていた。

 

 

俺の足には、張り付くほどのモノはなかった。

だから。

 

「───〜〜〜っっ!!」

 

脂汗が滲み。

口からは今にも悲鳴が出そうになる。

それでも。

それでも、と。

手は止まらない。

噛んだ布が軋んでいく。

じわじわと広がる色。

 

「は、は…っ」

 

やっとのことで開けた口から、べちゃと唾液を吸った布が地面に落ちる。

おぼつかない足取りで身を起こせば、確かに痛みが脳髄を灼いた。

 

「ぅ、う゛…」

 

けれど、それしかしようがなくて。

しょうがなくて。

俺は、先行った"星"のようにはなれなかったから。

尾を引くほどの煌々しさもなければ、引き留めるほどの強さもない。

ただただ無様なだけの、ちっぽけな…()()()()()

 

「スパンコール貼って、周りの光からおこぼれ頂戴してただけだ、俺は…」

 

足取りは重い。

そして、足跡だって不格好だろう。

一歩一歩が滲み続ける。

それでも、進まなきゃいけないのだ。

 

「……あぁ、そうだよな」

 

見上げた空に浮かぶ"星"は、いつか見たものと変わらない。

少なくとも、この目に映す限りは。

 

「俺は、アンタらみたいに輝けないけどさ」

 

でも。

輝けないなりに、

 

「『(しるべ)』ぐらいには…」

 

 

地面には、足跡が広がる。

ひどく目につく、赤い、赤い。

踏み潰された痕。

または、自分の身を削った跡。

しかしそれは…どうしようもないほどに『(しるべ)』で。

 

恐ろしいのに、目が離せない。

忌避しようとするのに、惹かれてしまう。

まるで呪いのようなソレは、見る者を惹きつけてやまない。

 

「……」

 

その跡を辿れば、いずれ行き着く先があるはずだ。

それを人は希望と呼ぶのか、絶望と呼ぶのか。

あるいは……。

 





踊るように歩いていった"はじまり"と。
"はじまり"ほどではないが、それでも重い足を動かしていった"にばんめ"と。
"はじまり"と"にばんめ"みたいに踏み潰せ(なれ)なかったから、自分を削った"さんばんめ"。

そんな、話。
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