さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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まだ、なにもない。



【容れ物】

自分は大して綺麗なウマではない…と自己批評してみる。

まぁ鍛え上げられた体と言っては聞こえがいいけれど、それもムダをギリギリまで削ぎ落としたモノだから綺麗は綺麗でも、()()()()()綺麗だとか。

顔だってとても美人な両親譲りだけど古傷がすべてを台無しにしているワケだし、目付きもやわらかくしようと努めているとはいえやっぱり怖いし。

 

「だから、話しかけられないのかな…」

 

しょんぼり。

友だちっていうと基本がクラスメイトという。

後輩などと仲良くなろうにも「ヒッ」と悲鳴をあげられて逃げられる始末で、さすがに凹む。

そんなこんなで今日も一人でトボトボと帰路につくわけだが、途中でふと気がついた。

 

「あー…?そういえば悲鳴あげて逃げてく子を見送ったあとに、よくみんなに話しかけられるよう、な…?」

 

思い返せば。

脱兎のごとく逃げ去っていく子に呆然としていると肩を叩く手。

そして振り返ればそこには友人たるクラスメイトのひとりだったり、複数がいて。

 

「えぇ…?まっさかぁ…、ない、よね…?」

 

 

傷だらけの品でもキチンと補修すれば傷がつく前よりも綺麗なものになるなんてままあることだ。

…だが手垢がつくのはダメだ。

"アレ"は我らのモノなのだ。

だから…なぁ?

 

睨みつけられた哀れな者が逃げ去っていく。

可哀想に、可哀想に、あんなに怯えて。

けれども悪いのはお前の方だ。

"アレ"の方から話しかけたとはいえ、あまつさえ笑いかけられ、触れようなど。

"アレ"は我らのモノだ…とは言っても、いつかは我らの中の()()()()()()()か、"アレ"自ら決めてもらうことになっているのだが。

 

"アレ"は【容れ物】に過ぎない。

器ではあるが、まだ(ソウル)の入っていない空っぽの状態だ。

なのに。

 

「どうしたの?」

 

じり…と己を焼く音がする。

空の【容れ物】、そのはずなのに。

【容れ物】、ただそれだけでも、欲しいと思ってしまう。

誰も見ることの能わなかった夢幻の【中身】()()()()のに。

どうして?

 

「ねぇ、何かあったの?」

 

心配げに見つめてくる瞳には確かに自分を案じる色がある。

それはそうだ。

この【容れ物()】は優しい子だもの。

ただ少しばかり人の機微というものに鈍いだけで。

 

───いいや、何でもない。

「そう…?ならいいけど」

 

【容れ物】、【容れ物】…のはずなのに。

自分たちが求めているのは、その【中身】のはずなのに。

何故だろう、どうしても欲しくて───。

 

───はァ…。





【容れ物】:
空っぽであるが故に綺麗なのか、それとも【中身】が入っても綺麗なのか。
それは未だ不明だが、同盟を組まれて【中身】入りになるまでゆっくりじっくり見守られている現状である。
……さて、どうなることやら。
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