ずっと、ソイツの影を重ね合わされていた。
『あの方によく似ている』
『貴方は本当にソックリ…』
牧場にいる奴らも、牧場の人間も、誰もが俺に『シルバーバレット』という存在を重ね合わせていた。
"シルバーバレット"
俺の母であるシルバフォーチュンの兄に当たるらしい男。
その男のことを俺はよく知らない。
だって誰も語らないから。
死んだその男のことを語らずに、ただ痛ましげに視線を下に向けるだけだから。
『お前は、全然似てねぇよ』
そんな中、唯一俺にそう言ったのは血筋的には祖母に当たるホワイトリリィだった。
『アイツは、チビは今のお前よりずっと小さくて、それでいて利口だった。
お前みてぇに喧嘩売られたらすぐ買うとか、そんな馬鹿なことはしなかった』
『うっせぇわ、ババァ』
『誰がババァだ、口を慎めクソガキ』
ホワイトリリィはいつも一頭だけだった。
牧場にいる奴ら全員があまり近づこうとせず、俺の母だけが時折顔を見に来るような関係をしていた。
『まぁ…悲惨な最期だったんだろうなぁ』
『何でそんなことが言えるんだ』
『そりゃあ…、アイツのことを一番愛してた人間が来ねぇからさ。
産みの母の俺よりあの人間の方がアイツと一緒にいた時間は長いだろうがよ。
アイツが怪我した時も甲斐甲斐しく通ってた人間が来ねぇんだ。
だから…』
それほどまでにアイツの終わりは、救いがなかったんだろうな。
*
そんなことを思い出した。
俺は未だにシルバーバレットの影を重ね合わされていた。
父親であるオグリキャップの姿も重ね合わされていたにはいたが、やはりシルバーバレットの影の方が濃い。
今、俺の上にいる人間はシルバーバレットの上に乗っていた人間の甥らしい。
おいおい、そこまで似なくてもいいだろうと思わなくもなかったが。
(クソ…)
重い芝の上。凱旋門賞。
シルバーバレットという馬はこのレースで伝説を作ったというが、
(脚、痛ェ…)
昔から弱い脚が悲鳴を上げる。
追いつけない、追いつけない。
あんなにも期待されておきながら、やっぱり俺は…、
(あ、)
諦めかけたその瞬間、一番前に小さな、黒い影が見えた気がした。
*
…届かなかった。
脚の痛みは最高潮。
『やっぱり、届かねぇのかなぁ…』
アンタのことをずっと呪いだと思っていた。
俺は、俺はシルバーチャンプという存在なのにシルバーバレットという存在を重ね合わされて。
ずっとアンタのことが嫌いだったんだ。
母も、祖母も、みんな悲しい顔をするから。
だから俺が救ってやりたかった。
でも、
『お前じゃなきゃ駄目だよ、シルバーバレット…』
甥っ子:シルバーバレットの影を重ね合わされていた競走馬。
脚が弱いことなどすべてがシルバーバレットに帰結する重ねられ方をしている。
芦毛なので父オグリキャップのことも重ねられたがやっぱりシルバーバレットのことを重ねられる方が多い。
シルバーチャンプという個を見てもらえないために、シルバーバレットを「呪い」と称し嫌っていた。が、凱旋門賞にてシルバーバレットの幻影を見てしまったが故に本心である「シルバーバレットのようなヒーローになりたかった」という気持ちを自覚してしまう。
だが、全身全霊でその幻影を追ってしまったがために屈腱炎となり引退。
後のシルバーチャンプの産駒は凱旋門賞に出走する馬が多く、出走したら出走したでみんながみんな"シルバーバレット"の幻影を見ることになるし、出会ってしまったが最後いつかその幻影を連れ帰りたいと思うようになっている。