さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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けど、うたかたの。



逃避行

たとえ明日の光を拝めずとも、キミが良いと心が叫んで。

控えめに触れた指先の温度ひとつで『幸せだ』なんて。

 

息も絶え絶えな僕を心配しながら。

ハァハァと白く吐かれる息に少しキミが隠れて。

休憩しようと立ち止まろうとするキミを急かし、先を急ぐ。

着のみのまま、何もなく。

手の中にあるのは、しっかと掴んだ互いの手のみ。

 

誰も奪わないで。

僕からキミを奪わないで。

それ以外なら、僕の命でも何でもやるから。

走り続け、疲れ果てた僕らは、そのまま倒れ込むように抱き合ったまま眠りについた。

何処まで行くのか、分からない旅。

けれど、

 

───きっと、見たことのない場所に辿り着くことは、確かだった。

 

 

『運命』なんて、勝手に位置づけたものにしか過ぎない。

稲妻に打たれたような衝撃を、その言葉でしか言い表せなかっただけのこと。

僕はただ、キミに惹かれただけ。

キミがいるだけで、世界は色付いて。

キミがいるだけでただの夜も、かけがえのないものになる。

 

開けない夜が欲しい。

陽の光に晒されないまま、誰にも見向きされないふたりきりで。

形に残らなくてもいい。

ただ、キミと一緒にいられる時間があればそれで良い。

それだけで、良かったはずなのに……。

 

「ねぇ」

「ん?」

「どうしてそんなこと言うの? だって、それじゃあまるで───」

「うん。もうすぐお別れだからね」

 

笑う。

キミが、笑う。

笑って、繋いでいた手を離し、するりと抜けていく。

 

「やだよ! なんで!? なんで……っ!」

 

必死に手を伸ばしても届かない。

伸ばした手が虚しく空を切る。

待って!! 行かないで!!!

そう叫びたいのに声が出なくて。

喉元から出る音がどうしようもなく惨めになっていくのと同時に、景色が瓦解していく。

嫌だ!!! 置いていかないで!!! ひとりにしないで……!!!

涙と共に吐き出された言葉すら、音にならない。

何もかもが崩れ落ちていく中、キミだけが鮮明に浮かび上がる。

泣き叫ぶ僕の頬に触れようと伸ばされる腕を掴みたくて、懸命に足掻くけどムダに終わる。

そして、とうとうキミの姿までも崩れ落ちて消えてしまった時、夢の中で絶叫した。

 

 

ハッとして目を覚ますと、そこはいつも通りの自室だった。

 

(……またあの夢か)

 

よく見る悪夢のせいで寝汗をかいていたらしく、寝間着が何となく重い。

二度寝しようにも眠れないだろうとこれまでの経験上を鑑み、キッチンに行って水を飲んだあと、相変わらずの散乱した机に向かう。

 

「はぁ…」

 

朝はまだ、遠い。





おじさん:
夢を見ている。
"キミ"と何処かに行こうとする夢を見て、そして最後には目が覚める。
何処にも行けないまま、辿り着けないまま。
『またね』も無しに、『お別れだ』って。

───キミが望むなら、僕は何処までだって…っ!
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