ただ進め。
その人は、俺の『憧れ』で、『夢』で、その他諸々…。
幼い頃から、よくしてもらったと思う。
『ウマが好きだ』と言うと心底より嬉しそうな顔をしていたその人──透おじさん。
『おいで、遥くん』
透おじさんはトレーナーだった。
だから彼に憧れた俺も、トレーナーになった。
おじさんの後を追い、同じ道を選んだのだ。が、
「…」
同じ職に就いたことによって、おじさんの手腕が傍目から見る以上にすごいモノだと理解して。
『鬼才』と言われるのもまぁやむ無しとは思うのだが。
「はるか、くん…?」
ぼんやりとした目は、こちらを映さない。
『大切』を失ってしまって、抜け殻みたいになってしまったこの人を見ていると……胸の奥にモヤモヤしたものが生まれる。
それはきっと、罪悪感だ。
俺は、あの時おじさんを支えれば良かったんじゃないか? って無意識下で思ってるんだろうな。
でもさすがに、こんな状態のおじさんを、親も会わせられなかったのだろう。
「…おじさん、ご飯食べよう?」
足の踏み場もないくらい、原稿用紙に占領された部屋に入って、おじさんを連れ出す。
そうして、そこまで上手くない料理をもそもそ食べて、美味しいのか作ったどうか自分でも分からないまま食事を終える。
「…おじさん」
茫洋とした目を。
見るたびに"かつて"を思い出して、勝手に傷つく。
だって、おじさんは───俺の『憧れ』だから。
認められたかった。
褒められたかった。
でも、俺がトレーナーになった頃、おじさんは既に…。
「…」
その気持ちも、分からなくはないから余計に。
『愛してる』と心底から告げることができる相手を唐突に奪われれば。
…きっと自分も、
想像できてしまうからこそ。
「ねぇ、おじさん」
そんなことを考えながら。
いつの間にか、いつもの部屋で眠ってしまった彼の髪を撫ぜる。
サラリとしていて、指通りが良い…けどパサパサとした髪質。
昔はよくこうやって頭を撫でてくれたっけ。
そうは思っても、俺がおじさんの『最愛』に代わることはできない。
壊れたものが、そのものに適した何かでしか治せないように。
おじさんの傷も…そう。
だからせめて、俺は───、
「大丈夫だよ、おじさん」
あなたがいつかまた笑えるようになるまで。
ずっとそばにいるよ。
*
「…飽きねぇヤツだな。それに随分と奇特だ」
「分かってるよ」
「あぁ、俺も分かってるさ。お前が類まれなる、一等の、大バカ者だってことはな」
「…ごめん」
「別に。…お前のやりたいようにやりゃあいいだろ」
「…うん、ありがとチャンプ」
「いーえ!」
甥っ子:
遥くん。
『憧れ』だからこそ元に戻ってほしいと思うものの、同じ穴の狢になった故にそうなってしまった理由を理解できてしまうジレンマ。
自分も、ましてや伯父自身もどうしようもできない現状に停滞している。
…まぁ皆おじさんの状況を知っているゆえに「仕方ないね」って思ってるフシあるし。
これで成績低迷すれば休養させたり引退させる口実になりえるのにおじさん一向に成績落ちず、逆に成績上げていってるからなぁ…。ハイ。