さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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ちょっとした、ひとひら。



或る百合の話

その馬は、とても大人しい馬だったという。

 

「穏やかな馬でしたね。綺麗好きではありましたがどこがどうとかってこだわりはありませんでしたし。どっちかと言うとその母親のホワイトリリィの方に気を揉んでいた感じです」

 

その牧場に、ある日引き取られてきた母子は思わず眉を顰めてしまうほど酷い有様だったらしい。

まず母親・ホワイトリリィの方が人を信用しておらず。

引き取られる前の牧場にて一時我が子を奪われかけた経験からか、何度となく我が子に近づこうとする人間を…という形で怪我人を出してしまったそうだ。

が、仔馬の方は……母馬がそんな状態なせいなのか、それとも元からの性格なのか。

触れ合うこと自体は大丈夫だったのだが…。

 

「撫でようとするたびに少し身体が強ばってねぇ…。で、棒状のものが近くにあったり、手に持ってる時は近づいてこなかった」

 

明言はしない。

だがそれとなく、母子や、また同じように預けられた母子と同じ牧場産まれの馬たちのかつての様子から、察するにあまりある。

けれど。

 

「競走馬になってからは、見るからに明るくなりましたね」

 

ずっと、一頭だけでぼうっと空を眺めていたような馬が。

体は少し小さいけれど、走る姿は申し分ないと、レースに出るようになったら。

まるでスイッチが入ったかのように、生き生きとしはじめたというのだ。

 

「まぁ…怪我が結構多くて、たびたび帰ってくるのには肝を冷やしましたけど……」

 

言うなれば、『天職』だったんでしょう。

───走るために生まれてきた。

……そういうことですかね。

そう言って笑うその顔はとても穏やかだった。

 

 

ちなみに。

その馬の母・ホワイトリリィについては。

 

「まず、何頭かいた同じ牧場出身の馬と引き合わせました」

 

誰も信頼しない、手負いの獣──。

故に人間では解き解せぬソレを同じ種族なら…と。

 

「彼ら彼女らも元は似たようなものだったんですよ。蹴られそうになるわ噛みつかれそうになるわで。でもそれは…」

 

人が怖くてたまらなくて。

自分以外の全てが敵にしか見えなかっただけなのだと。

 

「本当は僕ら人間が根気強く付き合わなければならなかったんですけどねぇ…」

 

同じ場所で生まれ、育ったからこそ。

分かり合えて、どうにかなるんじゃなかろうかと。

そう思ったから。

 

「…彼女はいっとう()()()で大切に育てられていたようですが」

 

けれども。

大切に、育てられていても"視て"しまったものだから。

自分には"成されないこと"を、自分以外が、受けているのを"視て"しまっていたが故に。

 

「ダメ、だったんでしょうねぇ…」





生産牧場では容赦なく抵抗するけど別の場所に移動したら噛む()()・蹴る()()になる白の一族のみなさん。

【白百合】:
ホワイトリリィ。
母と生まれて直ぐに生き別れたため"母親"の仕方が分からなかった馬。
牧場では病弱ではあれど目を見張るような才覚があった母ホワイトキティ唯一の産駒兼後継として大変丁重に育てられていた。
だが大切に育てられていたからこそ、許せなかった。
自分が無事であることを。仲間が、傷つくことを。
…その性格を見るに、気質は父ホワイトバックに似たようだ。
(なお見た目は母ホワイトキティの生き写しとする)

また食事に関しては移動してきた当初はがっついていたが徐々に落ち着いて食べるように(元の牧場が資金難で飼葉がいつも少なかったため食べられる時に食べる感じ。それは子である銀弾も同様で、銀弾の少食はそこから来ているのかも…?少ない食料でも動ける体に適応させた…的な)。

あとは綺麗好きでおしゃれさん。
ブラッシングされるのも好きだしたてがみやしっぽを結われるのも好きだったらしい(が信用されるまでは近づいただけで蹴られそうになる模様)。
ちな一番身綺麗にするのは彼女の夫とも謳われたヒカルイマイに会うときだったとか…。
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