さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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ぐるぐる。



縛られている

ふとした時に足音が聞こえる。

物書きの途中とか集中している時にパタパタ、と控えめに。

それから一段落してリビングに行けば用意されているのはホカホカの湯気を立てたご飯。

それをもそもそと、ゆっくり咀嚼して時間をかけて完食して水に浸ける。

そしてまた部屋に戻り。

こんこん、と足音と同じくらいの音でドアが叩かれれば風呂に入る。

変わらない日常。

 

…ぜんぶ、僕の責任だけど。

これはちょっとひどい仕打ちじゃない?

"いる"のに姿を見せてくれないなんて。

作られた料理は今日も同じ味。

いちおう料理本と必要な食材を用意しておけば新しいレパートリーを披露してくれなくもないけれど。

 

「さびしい」

 

けど。

眠っていると、キミがそばに"いる"と分かる。

眠る僕の頭を撫でて、流れ落ちる雫を指ですくって。

起こさないようにと気をつけた手つきで。

何も見てない夜の中で。

 

キミを縛り付けている。

離しがたくて、ひとりは嫌で。

『いかないで』って、声に出した。

そうすれば、やさしいキミはと(・)ど(・)ま(・)っ(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)と知っていたから。

どこにも行かないように、ぐじゃぐじゃに、雁字搦めにして。

…それまでは『自由』なキミが好きだって言ってた癖に。

だから。

あの日から、キミはこの部屋にいる。

 

*

 

ぐるぐると。

自分の脚にキツく巻き付く██(いと)をそのままに。

ちょっと血行悪くなりそう…ぐらいは思うけれど、そのキツさが心地よくて。

ぐじゃぐじゃと、身体中を這い回っていく██(いと)が肌の上を滑る感触がくすぐったいような気持ちいいような感じがする。

それが首と顔以外の全身くまなく行き渡ったら今度は足首まで下がって。

最後に残った一本がきゅっと締め上がって完成だ。

蜘蛛の巣にかかった虫はきっとこんな感じなのだろうとぼんやり考える。

でもまあ、この巣の主である彼はとても優しい人なので。

痛かったり苦しかったりすることはないのだけれど。

ただただ、ひたすらに。

愛おしむように優しく緩んだり、時には締めたりするだけなのだけれど。

それでもやっぱり、恥ずかしさはあるわけで。

 

ぎゅうぎゅうギチギチ。

██(いと)が巻き付く。

もはや黒なんて言えないくらいの色に染まった██(いと)が。

どこにも行かないよ、と言おうにも決して聞こえやしないので。

そばにいるぐらいしか、できない僕は。

 

このまま行き着くのはどこだろうと。

思案しながら今日も今日とて未練(いと)に巻かれて在るのだった。

 

(まぁ、僕がいないとダメな人だからなぁ)





どこにも行かないでって、どこにも行かないよって。
…まぁ、行きたくても行けないんですけど。
でも。

───それで、いっか。
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