さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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気づかないフリをしているだけ。


勝利と不穏

火事にあった日からだいぶ経って、そろそろ夏の中盤だろう。

彼を乗せて走ることを楽しく思えるようになってきて、レースに向けての調整がされてるように感じる。

 

同じ場所にいた馬が僕くらいの歳の馬が出る大きなレースがあると昔教えてくれていたけれど、何となくそのレースには出られない感じがした。

それを申し訳なく思いつつも周りのみんなが褒めてくれるのに僕はいっそう気を引き締めなければと思うのだった。

シルバーバレットは三冠レースに出られなかった。

火事の後遺症の様子を見つつ、ところどころで勝ちを上げていたが間に合わなかった。

 

そのことを残念に思うとともに彼が多頭数出走のレースがあまり好みではないことが分かった。

出走数が多ければ多いほどその分馬の気配が増える。

気配に鋭敏なシルバーバレットは気疲れしてしまうようなのだ。

 

どうしようかと頭を悩ませたが、彼の実力ならいけるだろうと出走馬の数もまずまずだった毎日王冠へと歩を進めることになった。

久しぶりにレースに出ることになった。

今回のレースに出る馬の数はいつもよりやや少ないかなといった風情である。

 

周りの気配を探ってみるとそれなりに落ち着いており、いつもこんなだったらいいのになぁ、と少しばかり考えてしまった。

 

考え込んでいるとちょっとばかし出遅れてしまい、慌てて先頭を取りに行くことになった。

彼には申し訳ないことをしたと考えながらゴールを抜ける。

 

みんなが嬉しそうにしているのを見ながら、考えるのは暇な時にしようと決める僕なのであった。

しゃもしゃもとご飯を食べる僕である。

あれからも何度かレースに出た。普通に勝った。

 

他の馬がどうかは知らないが僕のレースに出る間隔は結構空いてるふうに思う。

時折、彼も僕にいろいろ教えてくれるおじさんも僕の足を見ながら深刻そうな顔をして話し合っている時があるので、やはり僕の足には何かしら懸念があるのだろう。

 

相変わらず違和感が拭えない足だことで。

どうにも言い表せない違和感は僕の心の中に少しばかりの重圧を加えるのだった。

シルバーバレットは足に爆弾を抱えている。

それに気がついたのは調教後の彼の様子からだった。

 

走り終えてから、何かを確かめるようにもう一度軽く走る。

何度かそれを繰り返して諦めたように馬房に戻っていく。

 

シルバーバレット、彼の馬体は酷く小さい。

同年代の馬と比べると月とスッポンといえるほどに。

他の馬と同じ斤量であれど、体の小さい彼にかかる重さはいかほどのものか。

 

代われるものなら代わってやりたいが、僕にはただ彼が一生を無事であるように祈るしかできないのだった。




僕:才能は上々だが体がそれに見合っていない馬。
騎手のことが好きで走ることも好きだが自分以外の馬は嫌い。
嫌いというよりは全く興味を抱いていない。
体の小ささゆえ、周りの馬に煽られたこともあったが当の本人は耳のせいで何も気づいていない。
最近顔の火傷痕を見られるのが嫌なのでメンコをつけるようになった。
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