さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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元性別のウマ時空での未来の話。
ちょっとびーえる風味…?かもしれないので注意。
でもクソデカ感情だと言い張っておく。



それは『恋』に似ていた

「アンタ、いつまでそこにいるんだ」

 

その男の姿を見た時、俺は『あぁ、夢だな』と一目で分かった。

俺の言葉を受けた男は、少しだけ悲しそうに眉を下げて美しく微笑む。

 

男の顔はよく見えない。

その顔を見ようとして足を動かすとピチャリと水音がした。

靴の裏を見ると嫌に赤が目に沁みる。

 

「キミにはここまで来る覚悟はある?」

 

男が首を緩く傾げる。

その時俺は、唐突に男が椅子にしているモノの正体がたくさんの屍だと理解した。

 

「夢は踏み潰していかなくちゃ、至れるところにも至れないよ」

 

子どものように笑う男。

フラフラと揺れる足の踵に当たるのは何番目に踏み潰した誰の夢の屍なのか。

 

「門の先で待ってるよ」

 

夢から覚める。

 

 

俺の所属する銀色の一族はとある男の存在から始まった。

 

"シルバーバレット"。

 

俺は、名前だけしか知らない。

写真も何も、この家には残っていないのだ。

トレセン学園に行けば何かあるかと思ったが、何もなく。

"シルバーバレット"に関しての情報を消した誰かがいるということはすぐに分かった。その誰かも。

 

俺の家に何も残っていないのは"シルバーバレット"の母であったホワイトリリィが写真などを含む全てを処分したから。

トレセン学園に何も残っていないのは"シルバーバレット"のトレーナーであった男が情報を全て消去したから。

 

だから誰も"シルバーバレット"を知らない。

その、残された記録だけしか知らない。

"シルバーバレット"という存在を知っているのはきっと、同じ時代を生きていた存在だけだ、と今まで思っていたのだが。

 

「そうか…。お前行くのか」

「はぁ…」

「なら、会えるだろう」

「会えるって、誰に」

「"シルバーバレット"」

 

今代の銀色の一族当主である俺の父が笑う。

凱旋門賞に出るのならきっと会えるだろうと。

 

「ウチの一族が凱旋門賞に行くとな、出るんだよ」

 

曰く、その顔は見えない。

曰く、誰よりも前に、遠ざかっていく姿が見える。

 

「俺たちは、いつかあの人を連れ帰りたいんだ」

 

目を閉じ、開いた父の目は酷く熱が篭っていた。

父は「俺も会った」と言う。

 

「あの人は綺麗だった。

触れられないって分かっていても触れてみたくてたまらなかった。

でも追いつけなくて、…少し泣いたな」

 

俺の所属する銀色の一族を興したのは"シルバーバレット"の甥にあたるシルバーチャンプ様。

一族の夢を「凱旋門賞制覇」だと掲げたその人もきっと、

 

「捕まえられるかな」

 

俺たちは魅せられる。

それまでどれほど憎もうとも、無関心を貫こうとも、その影に魅せられるのだろう。

 

「捕まえたいな」

 

まぶたの裏には美しく笑う男の姿が刻まれていた。

 

 




シルバーバレット:銀色の一族からクソデカ感情を向けられている死人。
夢に出てきた彼や凱旋門賞にいる彼が本当に彼自身であるのかは不明。
この世界では彼が亡くなったあとに母であるホワイトリリィとトレーナーの手によって"シルバーバレット"の情報はすべて処分されている。
情報は無いが彼の出した記録だけが残っているため本当に『伝説』扱いになってそう。

銀色の一族:"シルバーバレット"に魅せられている。
また、"シルバーバレット"に呪縛されている一族でもある。
初代当主のシルバーチャンプのようにそれまでどれほど"シルバーバレット"を嫌っていようが凱旋門賞にて"シルバーバレット"を目撃してしまったが最後魅せられてしまう呪われた血統。
"シルバーバレット"に一族郎党クソデカ感情を抱いてそう。
もしかすると"シルバーバレット"が初恋だとか言い出すやつもいるかもしれない(なおその感情は執着や憧憬や嫉妬などがぐちゃぐちゃに合わさったものとする)。
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