さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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ずっとずっと。
見てきた我が子の、やっとこさの晴れ舞台。
なら、その続きは───?



栄光を見た

年甲斐もなく、夫婦そろってソワソワとしてしまっている。

まぁ、それも仕方のないことか。

いつも以上にキッチリした格好で訪れたのは東京レース場。

今日行われるG1ジャパンカップにやっとこさ我が子が出るとなれば…。

 

「…」

「どした」

「自分が走ってた時より、緊張する…」

「ははは」

 

たまらず胃のあたりをさする俺に妻がくつくつと笑い。

「チビなら大丈夫だよ」と強かに俺の背中を叩く。

……いや、痛いんだが?

そんなやり取りをしながらパドックを見ていると、出走バの紹介が始まった。

アナウンスと共に歓声が沸き起こる中、俺はふぅっと息をつく。

 

"チビ"こと我が子-シルバーバレットは13番人気。

ほぼ1年以上ぶりの出走+シニア級としても年齢がかの『老雄』を超えているのだから、この人気も致し方なしといったところだろう。

しかし……それでもやはり心配なものは心配であるわけで。

 

「……」

 

思わず祈るように手を組んでしまう。

すると隣にいた妻は苦笑しながら「大丈夫だって」と言ってくれたのだが……その声色はどこか不安の色が見えた。

 

こちらから見やる自分たちにとっては、まるで永遠と呼べる時間であるというのに。

走り出してしまえば、もう一瞬だ。

ファンファーレが鳴り響き、ゲートインが始まる。

いよいよ始まるのだなという感慨深さを感じながら、その時を待つ。

そして― ガシャコン!

 

ゲートが開いた瞬間、勢いよく飛び出していく影。

それを見送りつつ、俺たちふたりは固唾を飲む。

 

走り出した影の先頭は、予想通り我が子だった。

何も気負うことなく、淡々と走る姿には確かな自信を感じる。

「アレは無理だ」とかいう声も周りから聞こえるには聞こえるが、あの子の走りを事前に知っていたのなら決して出てこない言葉であろう。

そうこうしているうちに、あっと言う間に第4コーナーに差し掛かる。

ここから一気にスパートか、と思った矢先。

 

「ぁ、」

 

隣の妻が小さくもらす。

その音を聞き、視線を向ければ。

───遠雷が、鳴った。

微かではあるが、黒い稲妻を見た。

かつて、自分があのダービーで感じたあの稲妻を。

"電撃の差し脚"を。

 

「来る」

 

我が子の小さな体が、めいいっぱい躍動する。

あの遠雷はただ一瞬だけの幻のようで。

暗い銀色を翻しながら駆けてくる体は、まさに名が体を示してい(シルバーバレットだっ)た。

最終直線に入った時、まだ差は大きくあったのに。

それでもぐんぐんと伸びてきたその姿に、周りの観客たちは驚きの声を上げていた。

それは俺も同じことで。

ただ、自分の子どもがとんでもない才能を持っていることを、改めて実感させられた。

そして。

 

『おめでとう!』

『おめでとうございます───!』

 

まさか親である俺たちも、祝福されるとは…な。





遠雷が、響いて。
それから。
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