魅せられて、魅せてしまった。
ただ、それだけの話。
そこには、キラキラとした目があった。
盗み見るソイツが見つめているのは今年新しく誂られたポスターだ。
"ジャパンカップ"。
そのレースは盗み見るソイツの血筋にとって重要な意味を持つ。
だがそれは俺にとっても
なぜなら俺はこのレースで勝って証明しなければならないからだ。
己の力のすべてを試すために。
そうすれば、きっと……。
*
そのポスターに写るウマはシルエットだけで分かった。
何故なら己が血筋の"はじまり"といっても、いい御方だから。
自分にとって、何よりも憧れる存在だったから。
自分には走るための才能が、
だけど自分は走ることを諦めなかった。
だって自分にとっては走ることは、生きることと同義だったから。
いつかこのポスターの主に、あの御方に自分のレースを捧げるために、どんな厳しい練習にも耐えてきた。
…"ジャパンカップ"。
我が家系の課題レースと言っても過言ではないこのレースで、今年こそ悲願を達成するのだ。
そのためにこの日のために血反吐を吐くような努力をしてきた。
だから負けられない。
負けられない、から。
「ッお前!」
「は、ァあ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛!!!!」
全身全霊。
もしくは、
そう言っても、差し支えはないと思えるほどの一走。
芝の上を思い切り踏みつけ、爆発的な推進力を生む。
足への負担?
そんなものは気にしない。
今はただ前へ、ひたすら前へと脚を動かし続ける。
一歩でも前に進んでみせる!
何が何でも、ゴール板を切る!!
だって約束した、公言した!
『自分はこのレースを───』
*
「あは、あは、あはは…」
その姿を、誰もがぼうぜんと、見やっていた。
その脚は、もう二度と
競走には、一生、戻って来れないだろう。
それは、競走バという存在の俺たちにとって、致命的も致命的な、ハズなのに。
「よかった、やっ、たぁ…!」
わらう。
わらう。わらう。わらう。わらう。
心底嬉しそうに。
欲しいプレゼントを与えられた子どものごとく。
与えられないと思っていたものを勝ち取ったとでもいうように。
笑う。
ただ、勝利という結果だけを噛み締めて。
俺たちの、『絶望』をないがしろにして。
わらう、ただわらう、ソイツを、『勝者』として。
「これで自分も、あなたに誇れる…!」
───今年のジャパンカップというレースは、終了した。
───焼き焦がされたのは、誰?
自分:
どこかの世代の、ある家系に連なる誰か。善戦系競走バ、だった。
"ジャパンカップ"を勝つために、すべてを賭けた。
その結果、競走能力喪失し引退。
たったひとつの星を握り締めながら、功労バとなる。
周り:
ひたむきに走る自分に脳をやられていたところでのコレ。
ある家系の、ある存在に対しての【執着】を、眼前に突きつけられた。
誰も、自分の目には入っていなかった方々。