さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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魅せられて、魅せてしまった。
ただ、それだけの話。



一瞬の"ヒカリ"

そこには、キラキラとした目があった。

盗み見るソイツが見つめているのは今年新しく誂られたポスターだ。

"ジャパンカップ"

そのレースは盗み見るソイツの血筋にとって重要な意味を持つ。

だがそれは俺にとっても他人事(ひとごと)ではない。

なぜなら俺はこのレースで勝って証明しなければならないからだ。

己の力のすべてを試すために。

そうすれば、きっと……。

 

 

そのポスターに写るウマはシルエットだけで分かった。

何故なら己が血筋の"はじまり"といっても、いい御方だから。

自分にとって、何よりも憧れる存在だったから。

自分には走るための才能が、兄弟姉妹(きょうだい)と比べるとそこまでなかった。

だけど自分は走ることを諦めなかった。

だって自分にとっては走ることは、生きることと同義だったから。

いつかこのポスターの主に、あの御方に自分のレースを捧げるために、どんな厳しい練習にも耐えてきた。

"ジャパンカップ"

我が家系の課題レースと言っても過言ではないこのレースで、今年こそ悲願を達成するのだ。

そのためにこの日のために血反吐を吐くような努力をしてきた。

だから負けられない。

負けられない、から。

 

「ッお前!」

「は、ァあ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛!!!!

 

全身全霊。

もしくは、()()()()

そう言っても、差し支えはないと思えるほどの一走。

芝の上を思い切り踏みつけ、爆発的な推進力を生む。

足への負担?

そんなものは気にしない。

今はただ前へ、ひたすら前へと脚を動かし続ける。

一歩でも前に進んでみせる!

何が何でも、ゴール板を切る!!

だって約束した、公言した!

 

『自分はこのレースを───』

 

()()()()に、捧げるって!!!!

 

 

「あは、あは、あはは…」

 

その姿を、誰もがぼうぜんと、見やっていた。

その脚は、もう二度と()()()()()、走れないだろう。

競走には、一生、戻って来れないだろう。

それは、競走バという存在の俺たちにとって、致命的も致命的な、ハズなのに。

 

「よかった、やっ、たぁ…!」

 

わらう。

わらう。わらう。わらう。わらう。

心底嬉しそうに。

欲しいプレゼントを与えられた子どものごとく。

与えられないと思っていたものを勝ち取ったとでもいうように。

笑う。

ただ、勝利という結果だけを噛み締めて。

俺たちの、『絶望』をないがしろにして。

わらう、ただわらう、ソイツを、『勝者』として。

 

「これで自分も、あなたに誇れる…!」

 

───今年のジャパンカップというレースは、終了した。

 





───焼き焦がされたのは、誰?

自分:
どこかの世代の、ある家系に連なる誰か。善戦系競走バ、だった。
"ジャパンカップ"を勝つために、すべてを賭けた。
その結果、競走能力喪失し引退。
たったひとつの星を握り締めながら、功労バとなる。

周り:
ひたむきに走る自分に脳をやられていたところでのコレ。
ある家系の、ある存在に対しての【執着】を、眼前に突きつけられた。
誰も、自分の目には入っていなかった方々。
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