さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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誰の、介在もなく。



暮らしてるだけ

「ご飯ですよ」

 

そのひと言でガバッと起き上がればクスクスと笑われる。

 

「おはようございます」

「ぅ、うん…」

 

ぐぅ〜、と大きなおなかの音が代わりに返事するようなので、また笑われる。

 

「盛り付けときますね」

「ありがとう……」

 

顔を洗って、着替えてからリビングに行けばすでに食卓には朝食が並んでいた。

焼きたてのパンとふわふわオムレツ。それにサラダもついている。

 

「いただきます」

 

手を合わせて食べ始めると、一緒に食べ始めたあの子がじっとこちらを見てくる。

 

「……なぁに?」

「いえ、とても美味しそうに食べるなと思いまして。ほら、どう作ったって自分の味ですから。…美味しいのは美味しいんですけど」

「うん、美味しいよ。料理上手だよね」

「まあ、母に教わったので……。でも、よかったです」

「なにが?」

「気に入ってもらえたみたいで」

「……そりゃあ、胃袋掴まれたからね」

「褒めてもご飯しか出ませんよ」

 

素直に感想を言えば少し照れたように。

誰かと食事をするのは久しぶりだったし、こんなに温かい気持ちになったのも久しぶりだ。

この子が来てからというものの、今までが嘘のように毎日が鮮やかで。

 

「また、お昼になったら呼びますから」

 

 

男とその同居人が共に暮らし始めた、それがいつのことだったか、もう定かではない。

ただ元より人としての生活を営むことに向いていなかった男の元に同居人が現れ、日々細々とした世話を焼くようになったのは確かであった。

 

「夜ご飯ですよ」

「あぁ、」

 

昼を食べ終えてから今まで、書き物をしていたからか伸びるとバキバキと音が鳴る。

 

「今日は、」

「オムライスです」

 

別にこうして共に食事をとることは強制されているわけではないし、なんならはじめは男はひとりで食事をすることの方が多かった。

だがそうするたびに同居人が寂しそうな目で見てくるので、なんとなく一緒に食べるようになった。

 

「美味しいですか?」

「……あぁ、美味いよ」

「それはよかったです」

 

嬉しそうに笑う同居人につられて男も少し口角を上げる。

誰かと食べる食事はいつだって美味しくて温かい。

そんな当たり前のことを、男は久しぶりに思い出した。

 

「…どうか、しました?」

「え、?」

「いえ、手が止まっているようでしたので…お嫌いなものでも、と」

「いや、好き嫌いは特にないよ。うん」

「なら…いいんですが」

「うん」

 

そうしてまた、食事を再開する。

誰かと食べるご飯は美味しいものだと、かつて誰かが言っていたような気もしたが、もう男には思い出せなかった。

 

「……」

 

男は人付き合いが苦手であったし、そもそも他人に興味を持つことがなかった。

そんな男の前に現れたのがこの同居人。

はじめこそ鬱陶しく思っていたものの、いつしかそれが心地よくなっていた。

そしていつからかその心地よさに名前をつけたくなったのだ。

だが、それは───。

 

「…、」

 

故に、男は今日も口を噤む。

おだやかなさざ波に揺られるように、変わらぬ日常を過ごすために。

 

(幸せ、か…)





男:
同居人と過ごしている。
普段は書き物をしており、あまり家から出ない。
同居人の食事に胃袋を掴まれている。

同居人:
どこにでもいる同居人。
ご飯を作るのが上手い。
また男の扱いも上手く、何だかんだで手綱を握っている。
だがどこの誰と聞かれると…?
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