変わる前と変わったあと。
何の感慨もなく、また光も無いはずの目に
「あ、███!」
まさにそうとしか呼べない事態に、誰もがひどく動揺した。
どれほど話しかけようが軽い反応しかなく、誘いをかけても「トレーニングがあるから」と競走バとしては理想的な断り文句をつけて。
誰にも靡かず、何にも興味を抱かず…生きていたような
「どうしたの?」
───そんな、幽霊でも見たような顔して。
ニコリと笑んで、ゆるりと開いた瞼から見える色は
ただ単色で塗り潰されただけのような目が、人知れず。
本来なら
「…ふぅん?変な███」
*
ガラス越しか、それともスクリーンに映ったものを見ていたのか。
そんな心地で生きていた十数年。
"あのウマ"に魅せられてしまってから、己は一介の幽鬼であって。
遠に届くはずもない影を求めて手を伸ばすだけの、どうしようもなく惨めな存在に成り果てていた。
「はぁ……はぁ……」
だから、これはきっと夢なのだろうと。
また今日も、夢の中で走るのだろうと───そう思っていたのに。
「はっ……はっ……!」
夢にしては妙に現実味があって。
しかし現実にしてはやけに希薄な感覚で。
そんな矛盾した世界に自分はいた。
"あのウマ"と同じ世界にいるという実感が持てないまま、ただ走っていた。
(なんでだ……?なんで…?)
ずっと追い求めていた背が、ハッキリとはいかないまでも
音も、時間も置き去りにして、動いているのは自分と"あのウマ"だけという夢のような、夢でしか、許されないような。
「はっ……はっ……!」
走る。走る。
ひたすら、ひたむきに。
追いつきたいから?
それとも"あのウマ"に
(違う……!)
そうじゃない。そうじゃなくて───!
「はぁっ、はぁ!!」
"あのウマ"は走っている。
その背を追っている自分も走っている。
それまでは肺が破裂しそうなくらいに息があがっていたというのに、今は不思議と身体はよく動いてくれていて。
(なんでだ……?でも、そんなことどうでもいい!!)
なんで自分は走れているんだ、とかいうのは後で考えよう。
だから、今は───。
「待っ───」
手を伸ばした瞬間、耳を劈く音。
それにビクゥっ!と体を振るわせれば『おめでとう!』と降り注ぐ歓声。
「ぁ、」
その祝福を聞きながら、自分は。
(もう、終わっちゃったのか…)
目:
『領域』に入る前と後を比べると目が変わっている系列。
『領域』に入る前は基本バケツツールで塗り潰したみたいな目をしているが、『領域』に入った後だとみんな揃いも揃って銀灰色になっているらしい。