でも。
「ほら、キミの愛しの赤が来たよ」
トレーニング終わりに、トレーナーさんからかけられた言葉に振り向けば同じようにトレーニングを終えたらしいグローリーゴアがいて。
「愛しの…って」
「だってそうでしょう?」
「…。食事、ちゃんとして寝てくださいね」
「分かってるよ。で、」
「はい?」
「友だちができてよかったね」
「はぁ」
大概のことに興味がなさそうなのに、この人は。
半ば決まりきっていたように僕-サンデースクラッパのトレーナーになったこの人は見てくれは優しげな初老の男性だが、その実は悪辣なまでの策士であって。
「友だち…なんでしょうか?」
「まぁ、そうなんじゃない?」
ふたり揃って「ひとりでも別にいいや」タイプの、自分の好きなことに夢中な人間なので、友だちというのがどういうものなのか…。
「まぁ、でも」
「はい」
「いい刺激にはなるんじゃないかい?」
・
・
・
グローリーゴアは、サンデースクラッパのトレーナーである初老の男が、少々…苦手であった。
特に何をされたということもないのだが、どうにもあの目で見つめられるとヘビに睨まれたカエルのように、動きが鈍ってしまうのだ。
「グローリーゴア」
「……はい?」
トレーニングの休憩中、珍しく向こうから話しかけてきたことに驚きつつも応えれば。
「あの子のこと、よくしてやってね」
「…、」
「あれ?違った?」
「いえ、」
「なら、ね?」
くす、と笑う様もわざとらしい。
「……、」
グローリーゴアは、サンデースクラッパのトレーナーが苦手である。
*
『何を考えてるか分からない人』。
それがそのトレーナーによく向けられた印象だった。
まるで未来が見えているかのような位置取りの指示やら、それまでの戦績からあまり期待されていなかった選手を勝たせる手腕など。
トレーナーとしてはこれ以上ないワケだが、それ以外の日常生活部分が謎に包まれすぎていて。
「…?」
神秘的、と言うよりも
「あ、」
そんな彼が、ある日突然に姿を消したのはサンデースクラッパが引退し、「今日からずっとグローリーゴアのところにお世話になるんです」と告げた後のことで。
「そう」
「はい」
穏やかだった。
…というよりかは静かだった。
「サンデースクラッパ」
「はい?」
「キミは、いま楽しいかい?」
「……まぁ、そうですね。それなりに」
「そう。なら、よかったね」
それだけだった。
それだけの、話。
それだけの話、だった、はずなのに。
「…スー」
「だい、じょうぶ」
「……」
トレーナー:
【戦う者】のトレーナー。
担当である【戦う者】から見ても何考えてるのか分からん人ではあるがその指示は非常に的確。
トレーナーとして神がかっている分それ以外が希薄過ぎるとも言うし、レースに関わらないとマジで人形みたいというか。
たぶん【戦う者】こそが彼をこの世界に引き止める最後の存在だった。
で、【戦う者】が行き着くところに行き着いて、幸せになるというので安心したんだ。
それはそれとして「ほら、キミの愛しの赤が来たよ」という科白は実馬時代からよく言っていたらしい。
またそう告げると【戦う者】はもう一段ギアを上げていたのだとか。
…さすが抜かれないと『領域』が発動しない馬だな。