さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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帰りは───?



行きはよいよい

「怖くなったら逃げればいい。

──キミには、それが許されている」

 

外から入った、キミには。

かつて、その家に婿入りする時にコソリと言われた言葉。

ひっそりとした祝いの場であったから、きっと横にいた妻となった彼女にも、その言葉は聞こえていただろう。

 

【白の一族】…。

 

少し裏に足を踏み入れれば半ば伝説のように耳に入ってくる名称。

その一族が、この地域に住まう者の中でも特別な地位にあることは知っていた。

ここら辺一帯を裏から支える、影の一族。

その名の庇護は強く、表の人々はそのことに感謝しつつも確かに恐れ。

『自警団みたいなモノ』とは言うが、その実態は【白の一族】当人たちとて全容を把握できていない。

なぜなら、そう。

彼らは、本当に『自分勝手』だからである。

 

「いや、ホントに今何人いるかってトコロから分かんないンだ」

「はぁ、」

「昔っから追われて、な生活の奴らばっかりだから一箇所に集まったりとかもしなくて…。集まったら、一網打尽だから」

 

くつくつと笑う義父は今日も変わらず口籠と目隠しをされている。

家に戻れば外すようだが、外ではトレードマークというか…威嚇のようなものとして使っているらしい。

 

「マ、またフラッと立ち寄ったって秘密裏に何人か来るだろうさ。キミの紹介はその時に」

「…なるほど」

 

男ひとりだけであるのなら、おうおうと絡みに来るいつもの連中も流石に養父が男の傍にいるとなるとひっそりと身を潜めるようで。

華奢ではあれど、簡単に大の男を転がす技術を持つ養父の実年齢はまだ杳として知れず(当人は『まだ若いヨ〜』と言うが)。

 

「じゃ、帰ろっか。…リリィも寂しがってるだろうし」

「はい」

 

 

自分たちが極一般の『普通』──いわゆる世間というヤツから恐れられる側だという自覚はある。

カリスマ…と言っていいのか分からないぐらいに他人を惹き付ける素養は容易に他人の人生を狂わせてしまう。

故に人目を避けて、生きることにした。

がしかし。

 

「……、」

 

ワチャワチャとしている娘夫婦を見やる。

"閉じた世界"──この町しか知らなかったあの娘が連れてきた、新しい家族。

 

『髪や顔立ちは私似ですけど…ほら、目はアナタにそっくり』

 

そう言って笑った妻は、もういない。

幸せそうにする若人ふたりに、妻が居れば…と夢想するがどうしたって頭の中の妻は若々しく、逆に己は年老いて。

 

「…怖くなったら、逃げればいいとは言ったけど」

 

寂しいものは、寂しくて。

本当にそうなるなら、『愛する人が望むなら』と、可愛い我が子は必死にその寂しさを呑み込むだろうけど。

 

(願わくば…)





【白の一族】:
ある地域一帯をそれとなく治めている。
構成人数は遠に分からなくなってはいるが、一族同士が会ったら会ったで「あ、コイツ、ウチのだな」と分かるのでその名を(かた)る奴はまぁいない。
伴侶を外から取った場合は『来る者拒まず去るもの追わず』を心情としているがやっぱり寂しい。
…愛情、深いからね。
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