さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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いい匂い。





何の障害もなく、流れ続ける水のような、そのストレートの長い髪のひと房を、そっと取って口付けたのは祈りだったのか、はたまた。

 

「これだけ長いのは、子どもの時以来だよ」

 

そう言って笑うのはクラスメイトであるシルバーバレット。

某タキオンから治験を頼まれ、こころよく了承したところ、今回はこうなったのだと言う。

伸びた髪は彼女の腰を越えて、床につくまでだったから、ぺたりと座すとまるで彼女がラプンツェルに見えた。

 

「でも、ちょっと邪魔かな」

「そうか? あたしは…好きだけど」

「そうなの?」

「だって、この髪ならシルバーを捕まえるのも簡単だろ?」

「……それは、怖いな」

 

シルバーバレットは苦笑いをする。

ムダな肉が削ぎ落としに削ぎ落とされての、あの速さなのに。

それにプラスしてこんな長い髪が生えちまったら…なぁ?

 

「にしても動きにくそうだな」

「まぁ、ね」

「髪梳くか?」

 

スカートのポケットに入っていた折りたたみ式のブラシを出すと、シルバーバレットは首を振る。

 

「いや、いいよ」

「そうか? でも……」

「いいんだ」

 

シルバーバレットはそう言うと、自分の長い髪をひと房手に取り、クスクス笑う。

 

「ふわふわだねぇ?」

「…そうだな」

 

 

後ろから抱き着くとふわふわの髪に埋もれる。

 

「シルバー」

「ん?」

「……何でもない」

「そうかい」

 

ふわふわの髪に埋もれると、何だかとても安心する。

だから、あたしは後ろから抱き着くのが好きだ。

シルバーバレットはクラスメイトだ。

いつもぽーっとしているが、授業態度は真面目で先生のちょっと意地悪な質問にも軽々と正解する。

そんなソイツとあたしが仲良くなったのは、たまたま席が近くになったからだった。

 

「おはよう」

「……おはよう?」

 

と、挨拶をしたのが最初。

それからは授業でペアになることが多くなり、昼食も。

そして放課後も一緒に過ごすようになり……。

いつの間にかあたしはシルバーバレットが気になっていて、それを自覚した時にはもう手遅れだった。

 

「なぁ……」

「ん?」

 

ふわふわの髪に埋もれながら。

 

「シルバー」

「ん?」

「…いい匂いする」

「そう?でも普通のシャンプーだよ?」

「そ」

 

薄らと土の匂い。

たぶん髪が伸びる前に軽くトレーニングしてたんだろうなぁとか、そんなことを考えて。

 

「シルバー」

「うん?」

「好きだぞ」

「……ありがとう?」

 

後ろから抱き着いたまま、そう言うと。

不思議そうに、彼女は礼を言うのだった。

 

「…カツラギ?あれ、カツラギ?……寝ちゃった?」





【世界制覇の大エース】:
カツラギエース。
僕の髪に顔を埋めるのが好きとかどうとかいう噂がある。
でもとりあえず僕の髪が好きなことはたしからしい。
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