さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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Where do you live?



ひとりじめ

その日、シルバーバレットはまぁそこそこに知己となったふたりがいるであろう旧理科準備室に足を踏み入れた…はずだった。

 

「ぇ、」

 

ドアを開けて、足を踏み出して。

床につくはずだったつま先が、とぷん…と何かに飲み込まれた。

いや、確かに地に足はついている。

なにも変わらずそこに床が存在することは確認できるのに、何故か感触だけが「違う」。

思わず口から勝手に怯えた声がこぼれて、シルバーバレットは躓きそうになる体を慌てて立て直した。

なんとか踏ん張って周囲を見回す。

おかしなものは何もない、よく見慣れた理科準備室だ。

けれどなにかがおかしい。

 

───どこか、薄暗い。

 

そんなふうに感じるのにどこが変なのかは分からない。

原因も理由もわからないからどうしようもない。

違和感と曖昧模糊な焦りだけが、そこに"正体不明のモノ"が存在しているのだとシルバーバレットに錯覚させた。

心臓が奇妙なリズムを刻み、頭が鈍く痛み出す。

考えてはいけないと思考が警鐘を打ち鳴らすのに、何故だか思考は勝手にやみくもに散らばった仮説をつなぎあわせて結論を出したがる。

そこにたどり着いてはいけない。

それに気づいたらもう逃げられない。

そう本能が泣き叫んでいるのに、

 

「ぁ、」

 

開いて、閉じてを繰り返して。

幾度目かの瞬きで、シルバーバレットの眼はその影を捉えた。

数瞬前にはいなかったはずの影は知己のふたりの内、ひとりの姿に酷似していて。

しかし、ニィと唇をつり上げるその笑みが明らかに知己とは違うとシルバーバレットに伝えてくる。

 

「────、」

 

名前を呼びかけたその瞬間、きゅうっとその眼が細く三日月を描いて。

ひと呼吸の内に眼前まで迫っていたその影に何も出来ないまま、シルバーバレットは…。

 

 

シルバーバレットが行方不明になって、一ヶ月近くが経った。

ひとり暮らししている部屋に帰った形跡はなし、携帯電話も既に電源が切れているためGPSでの捜索も出来ない。

警察に届けもしたようだが、事件性の有無が不明なためかあまり積極的に動いてはもらえなかった。

シルバーバレットの友人や知人も積極的に動き、あちこち探し回ってみたものの、それでも行方は知れないまま。

 

「……」

 

そのような日々の中で、マンハッタンカフェはひとり思考していた。

マンハッタンカフェしか知り得ない事実。

マンハッタンカフェしか知らぬ事実。

シルバーバレットが行方不明になった原因。

マンハッタンカフェは、それを知っている。

 

「────」

 

しかしそれは、今のマンハッタンカフェにはどうしようもないことだった。

 

「どうすれば…」

 

マンハッタンカフェには、『お友だち』がいる。

その『お友だち』は、マンハッタンカフェのそばにいる時もあれば、ふらっと外で走っている誰彼かと楽しげに併走している時もある。

だがここ最近は、……呼んでも出てこない。

まるで、どこかに閉じこもっているような気配がある。

 

「どうすれば、いいんでしょう……」

 

マンハッタンカフェは、それを知っている。

知ってはいる、が…。

 





僕:
シルバーバレット。
どこにいるんだろうね?
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