さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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いい匂い。



香るが示す

シルバーバレットというウマはよく注目されている。

クラスメイトは言わずもがな、先輩からも後輩からも。

 

──あの、シルバーバレットってそんなに凄いウマなんですか?

──凄いなんてものじゃねぇよ! 日本初の凱旋門賞とBCクラシック制覇だろ?それとそれと…。

 

昔、用務員たちがそんな話をしていたのを聞いたことがある。

…とは、言えども。

 

「やっほう!シリウス」

「おー」

 

シリウスシンボリの前の張本人は──語られているような人並み外れた感じはない。

『強すぎる』と言うのも考えものかと、次から次へと尾鰭がついては神格化されていく友人にシリウスシンボリは人知れずため息を吐く。

 

「どうしたの?」

「いや、」

 

シリウスシンボリの目の前の友は、どこにでもいる有り触れた、普通の、年頃のウマだ。

好きな教科があれば苦手な教科もあるし、すべてがすべて完璧というワケではない。

 

「お前がアイツみたいじゃなくてよかったってさ」

「…まだ、仲直りしてないんだ?」

「そもそも仲違いすらしてねぇよ」

「……まぁ、そういうことにしておくよ」

 

シルバーバレットに押し付けられるある種の『完璧』は、シリウスシンボリが最も嫌うところである。

が、シルバーバレット自身は「『完璧』なんてないない!」と呵呵大笑に笑い飛ばすから。

 

「でも……仲直りはした方がいいよ」

「お前がそう言ってもなァ?」

「……はは、」

 

シルバーバレットは苦笑いする。

そんな彼女をシリウスシンボリは子猫を撫でるようにくすぐるのだった。

 

 

「うわぁお」

「…はは、最近構ってやれなかったからかな?」

「……キミ、犬か何かかい?」

「この皇帝を犬呼ばわりとは…さすがキミだな」

「言葉の綾だろう?」

 

廊下を歩いていて、すれ違おうとしたところで捕まった。

そこから生徒会室に引きずり込まれては、カーテンも何もかも締め切った部屋で…瞳孔開いた【皇帝】サマに見下ろされてるってワケ。

 

「僕、キミのモノになった覚えはないんだがなぁ───ルドルフ会長?」

「キミのモノになった覚えはない、か」

「うん。僕は僕のモノだよ」

「……そうか」

 

我らが生徒会長-シンボリルドルフは僕の言葉にどこか寂しそうに笑った。

……そんな顔するなよ。

まるで僕が悪いみたいじゃないか。

 

「で?何の用?」

「……いや、特に用はないさ。ただ……」

「ただ?」

「……キミから香る匂いが気に食わなかっただけだ」

「……ふぅん?」

 

シリウスシンボリと会話したことは誰にも言ってないはずだが、どうやら目の前の【皇帝】サマには全部お見通しであるらしい。

体格差をもって、するりと抱き上げられては全身をくまなくマーキングするように擦り寄り、撫でられていく。

 

「…ルドルフ会長。キミの匂いは些か特徴的が過ぎるんだがなぁ」

「あぁ、特注の香水を振っているからね」

「香水って……キミ、生徒会長だろ?」

「はは。バレなければ問題ないさ」

「そういう問題かなぁ……?」

 

匂いとは記憶に直結するものだ。

一度嗅いだことのある香りはいつまでも記憶に残るし、その香りを嗅ぐ度に思い出す。

だからこそ、僕はこうも擦り寄られることに少しばかりゲンナリとしているのだが…。

 

「こうしないと、物分りの悪い者もいるからね」





僕:
シルバーバレット。
【皇帝】からよくマーキングされる。
【皇帝】のしてる香水の匂いはいい匂いだと思っているが、周囲が『会長さんのしてる香水いい匂いだよね』とよく話しているのを聞いては戦々恐々。
たぶん分かる人にはすぐ分かるくらいには匂いがしそう。

【皇帝】:
シンボリルドルフ。
特注の香水でいい匂い。
そして自分の好きな匂いが僕からするのに今日もニコニコ。
曲がりなりにも獅子。はっきりわかんだね。
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