さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

624 / 1417

蜘蛛に唯一喰われない人。



蜘蛛の愛し子

「【旅路】?」

 

昔から。

ふわりと、笑う人だった。

穏やかで、朗らかで。

午後の陽だまりのような人で。

しかし己が、ジワジワと、ゆっくりと、その光に焼かれていっていることはしっかりと自覚していた。

己が孫となったあの子含め、その他大体がパッと閃光みたく総てを焼き尽くすというなら、かのウマ-シルバープレアーは。

 

「おいで」

 

差し出される手はやわらかく。

 

「おいで」

 

差し出される腕はやさしく。

 

「おいで」

 

差し出される声はおだやかに。

 

「おいで」

 

差し出される総ては、まるで……そう、まるで、己を害するモノなどこの世に有りはしないのだとでも言いたげに。

 

(ああ)

(俺は)

(あの手を)

(振りほどけなかった)

 

そんな資格など自分にあるのかと自問自答しながらも。

その総てが、自分だけのために差し出されることに、どうしようもなく。

 

「おいで」

 

差し出される手は、大きくも、小さくもなく。

 

「おいで」

 

差し出される腕は、太くも、細くもなく。

 

「おいで」

 

差し出される声は、低くも高くもなく。

 

「おいで」

 

差し出される総ては、ただやさしく。

故に。

 

「いい子」

 

相手の望むように可愛がられながら、その実、キバが疼く。

ちょっとした好奇心に似た禁忌(タブー)

いま、やさしいこの人に噛み付けばどうなるのかしら?…とか。

 

 

その人となりを深くまで理解した人間から『蜘蛛』と謳われる件のウマ-シルバープレアーが唯一、何の打算もなくただ純粋に可愛がるのが【夢への旅路】という幼なじみだった。

幼き日からずっと共にいて遊んだり何だりして面倒を見てきたものだから、もはや獲物と言うよりかは自分が世話をしなければならない庇護対象のような認識になっているらしい。

 

「だから、良い人でありたいんですよ。───あの子の前では」

 

にこりと笑う様は嫌に綺麗で。

まるでテンプレートをなぞったような完璧な微笑み。

そこから『大切なあの子』と囁くからタチが悪い。

愚かにも自分が張った巣にむざむざとかかる獲物がいると知っていて、笑うから。

シルバープレアーがただ純粋に慈愛を向けるのは【夢への旅路】ただひとりというのを、受け入れたくても受け入れられないようにするから。

 

「あの子だけは。あの子だけは…ね?」

 

寄ってくるのなら、有難く貪り食らう。

飢えを満たし、肥大する。

そりゃあ確かに【夢への旅路(あの子)】も美味しそうだけど。

 

「だって、あの子は昔から僕を慕ってくれるから」

 

とはいえ。

喰われると喰われないとでは…どちらがいいのだろうか?





【夢への旅路】:
【銀の祈り】と幼なじみなウッマ。
唯一【銀の祈り】に何があっても喰われないことが確定している御方。
多分【銀の祈り】のヤベェ部分を今までもこれからも知ることがない人。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。
寄ってくるヤツはみんなムッチャムッチャ食べて糧にする蜘蛛みたいなウッマ。
すべからく堕として食いまくってるが、幼なじみである【夢への旅路】にだけは手を出さないことに決めている。
【英雄】が『一番食べたいな〜』だとすると、【夢への旅路】は『僕が守ったげるモンニ!』って感じ。
それを考えると、似て非なる…?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。