さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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俺は、どこにも行かないよ。



垣間見た夢

夢を見た。

はじめから、夢だと自覚している、夢を見た。

 

「…」

 

だって、そこでは貴方が遠に死んだはずの亡霊と戯れていて。

面倒くさそうな顔をしつつも、案外楽しげに走っている。

 

「……」

 

そして、そんな貴方を僕は遠目から眺めているだけで。

そこに、入り込む余地なんてない。

 

「……っ!」

 

そんな夢を見て、僕-【飛行機雲】は目を覚ました。

 

「……」

 

時計を見る。

まだ朝の五時だ。

起きるには早すぎる時間。

けど、もう一度寝る気にもなれないし、このまま起きていることにした。

 

「はぁ……」

 

ため息を一つ吐いて、ベッドから降りる。

カーテンを開けて外を見ると、ちょうど日の出の時刻だったようで、辺りが明るくなってきた。

 

 

「…大丈夫か?」

「……何がですかぁ?」

 

最近後輩がヤバい。

何がというと目の下の隈が。

化粧品とかで隠す余裕ももうないらしく、言葉をかけてもワンテンポ遅れた調子に返ってくる。

 

「いや、最近寝不足なんじゃないかと思って」

「……そんなことないですよ?」

 

そう答える後輩は、しかし明らかに寝不足で、いつ倒れてもおかしくないような様子だった。

……実際倒れたこともあるし。

 

「でも……」

「大丈夫ですって!ほら!今日も元気に頑張りましょう!」

 

そう言って無理矢理に笑って見せる後輩。

そんな無理した笑顔を見ると、本当に大丈夫なのだろうかと不安になるが、これ以上言っても逆効果だろうと引き下がることにした。

とはいえ、

 

「先輩?」

「昼寝したい」

「はぁ…」

「だから来い」

「えっ?…わっ!?」

 

強硬手段を取らないとは、言っていない。

引っ張って、抱き締めて、眠りに落ちるまでトントンと一定のリズムで叩く。

 

「……」

「……あの、先輩」

「何だ?」

「これ、恥ずかしいんですけど」

「気にするな、寝ろ」

 

そう言ってさらに抱き締める力を強めると、諦めたのか抵抗をやめて身を預けてきた。

それからしばらくして、後輩から規則的な寝息が聞こえてきたので、俺もそのまま眠りについた。

 

 

また、夢を見た。

ずっと、同じ夢だ。

貴方が、先輩が、あの亡霊と楽しげに走っているのをガラス越しに見ているような感覚。

 

『……』

 

じっと、亡霊が僕を見る。

その唇はゆるりと弧を描き、それから先輩に目を向けると、手を引いてどこかに行こうとする。

僕はそれを、見ているだけ。

 

───その人を連れて行かないで!

 

そう言いたくても唇はパクパクと空気を吐くばかり。

手を伸ばしても遮られて、足を動かしても追いつけなくて、そして、 先輩は、亡霊と一緒に消えた。

 

「っ!」

「…ふぁ、なんだぁ?」

「!」

 

ガバッと起き上がろうとすると横で僕を抱き締め眠っていた先輩を起こすことになって。

汗だくで息も絶え絶えの僕を舌っ足らずの声音で心配する先輩。

 

「……大丈夫か?」

「あ、はい……」

「そうか」

 

そう言ってまた僕を抱き締める先輩。

その温もりにようやっと安心して、僕は瞼を閉じた。

 





美しい花から摘まれるように、才ある者も────?
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