さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

635 / 1416

愛されてた人たち。



手を離していった

そのやさしい眼差しは、娘や自分から、というよりかは…遠き昔に儚くなった妻から受け継いだものだろう。

何の濁りもない、陰りもない、美しい目。

光の一縷も入らないソレは、見る人によっては恐れるものであろう。

しかし自分たちにとって、その眼差しは何よりも尊く、そして愛おしいものであった。

 

「おじいちゃん」

 

その眼差しを持つ孫は非常に華奢だ。

又聞きの話にはなるが、自分たちの家系の始まりである"かの方"もこの子と似たように華奢だったと聞く。

その血を、色濃く継いだ子。

 

「おいで」

 

自分たちの家系は、何かしらに率いで、何かしらに欠ける。

あちらが立てばこちらが立たずか、それともその逆か。

それは分からない。

けれど、この子だけは違うと信じていた。

 

「おじいちゃん」

 

この子は、きっと誰よりも強い子だと。

だから自分たちは、この子がどんな道を歩もうとも……それを見守り続ける覚悟でいた。

"あの日"までは。

 

「おじいちゃん」

 

いつからだろう。

その目に陰りが見え始めたのは。

いや、最初からあったのかもしれない。

ただ、それに気付かなかっただけで。

 

(……)

 

孫の細い体に傷がついた。

大きく目立ち、そして刻まれた。

孫の皮膚の色を易々と変えたその火傷跡は、あの美しかった目も焼いてしまったようで。

 

「おじいちゃん」

 

孫の声を、自分はいつから聞いていなかっただろうか。

 

「おじいちゃん」

 

ああ、この子が自分をそう呼ぶのは何年ぶりだろう。

この子はいつ頃から……自分たちを呼ばなくなったのだろう。

 

「おじいちゃん」

 

"あの日"からだ。

そう思い至ると、背中に氷水をぶち当てられた心地になる。

よもや、今の今まで忘れていたのか…と。

"あの日"、あの子は藻屑となった。

どれほど苦しかったろう。

どれほど無念だったろう。

「もうすぐ帰るね」。

それがあの子の最後の言葉だった。

悪運の強い子だった。

強い子だと…思っていた。

思っていた、だけだった。

 

「クソっ」

 

どうにも、神様とやらは自分たちのことがお嫌いらしい。

妻のことを連れ去っては、果てに孫であるあの子まで。

そりゃあ、あのふたりが何よりもキラキラと輝いている『幸い』であったのは確かだけれど、何も…奪わなくてもいいじゃないか。

 

「身勝手なクソ野郎が…」

 

どれだけその手を強く握っていても。

嗚呼神様、アンタってヤツは。

するりと自分たちの手から、自分たちの『幸い』を奪っていくの。

 

「大っ嫌いだ」

 

抱き締めてやろうにも、もうできない瞼の裏の影。

ただ己を呼ぶ声だけが潮騒のように遠くからした。





人間側は「美しいから奪われたんだ」と思ってるけど、神様側からしたら「コイツ世界のバグ!」って感じなんだよなぁ。
「コイツがいたら世界がしっちゃかめっちゃかになる!」っていう。
多分その本音を知ったら怒り狂うんでしょうね(すっとぼけ)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。