────あなたがいれば、それでいい。
外は眩しいぐらいの晴天だというのに。
そう思いながら部屋の主、その手ずから出してもらった紅茶を嗜む。
「はじめから、すべてのウマ娘の幸福なんて夢のまた夢なんじゃない?」
「…なんだと」
「あぁ、そんなに目くじら立てないでさ。その書類仕事のBGMぐらいに聞き流しててよ。で、」
チラ、と見やる先には万年筆を置き、己を見据える…。
「ほら、『幸せ』ってのは千差万別だ。大金が欲しい人もいれば、一切の病気や怪我なく健やかに暮らしたい人もいるし」
「…」
「そもそもが。僕にとっての『幸せ』が何か、キミに分かるかい」
────ねぇ、ルドルフ会長?
瞼を閉じてツラツラと語っていたので、一息ついて瞼を開ければ、そこには完全に聞く姿勢に入った我らが生徒会長-シンボリルドルフ。
「…何か」
「ん?」
「何か、言われたのか」
「いンや、特には?」
「…」
「だって今のキミに意見できるような気概のある子…いるワケないだろう?」
現在、この学園で彼女を昔から知る生徒は僕-シルバーバレットだけだ。
後はみんな後輩となり、同期周辺だって皆、第二のバ生を歩んでいるのだから…どうにもこうにも。
「紛うことなき【皇帝】だもの、キミは」
そう、【皇帝】。
あの頃はよかったのだ。
真っ向から止めるシリウスに、そうじゃなくともシービーやマルゼンがいて。
ちゃんと
だが今はどうだ?
誰もいなくなった。
【
生徒のみならず…大人たちまでも。
「キミのやり方は、長期的に見ればそりゃあそりゃあ効果的な案だ」
「でも、キミは遠い未来を見すぎている」
「あの子たちは、
「砂金を見るキミと違って、あの子たちは今に換金できる黄金が欲しいというのに」
誰もが脱兎で逃げ出す
「そんなんだから今こうなってんだろ」
「……」
「ハハ、まったく。【皇帝】とは言い得て妙だな。キミのやり方は的確だ。……暴君と、みんな誹れないほどに」
そうしていると、胸ぐらを掴まれた。
「キミの『幸せ』は何だ」
「99人を救えるなら、キミは自分ひとりを切り捨てる人間だ」
「随分な大義名分だな。自己犠牲がそんなに高尚か?」
ヘラ、とそう嘲笑えば。
「わたしの、『幸せ』は」
はくり、と唇が喘鳴する。
その隙間から溢れた言葉を聞く。
言葉を聞いて。
聞いて、僕は。
「…わかった。キミが、そう望むなら」
ポン、と頭を撫でる。
打算ではあれど、このまま彼女を放っておくとどうなるか分かりやしないので。
「それで、いいなら」
…そうしてやるさ。
【皇帝】:
シンボリルドルフ。
銀弾を手に入れた√。
またの名を「暴君なり得ぬ皇帝」。
銀弾以外の周辺世代が居なくなってしまった結果、【皇帝】のやることなすこと全てをイエスマンするヤツしかいなくなっていつしか暴走。
長期的に見れば良い結果を成す案を立案しては通し続ける日々。
でもみんながみんな彼女や銀弾のように
だが誰も逆らわない。
だって、────彼女は何も間違っていないのだから。
僕:
シルバーバレット。
「暴君なり得ぬ皇帝」に唯一意見できるヤツ。
【皇帝】サマよりかは客観的に周りを見れているが、コイツもコイツで【皇帝】と同類の強き者なので真に周りの気持ちを理解することはできない。
この度、「このままコイツ放っておくよりかは近くで監視した方がいいな」の打算の気持ちで【皇帝】のモノに。
これからそれとなく【皇帝】のやることなすことに口を出していくこととなる。
ま、【皇帝】が引きずり下ろされたとて。
───この座につけるヤツなんて、今の学園には…。