さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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夢うつつ。



老いぼれの考え事

あんなに華奢だったかの母からよくもまぁ、己のような筋骨隆々の男が生まれたものだと、月を肴に酒を呑むたびにシロノマガツは考える。

己以外の弟妹はみな、母に似て華奢で線も細くであったというのに。

幼き日から昔話の金太郎のごとくだったシロノマガツは、それはそれは恐れられた。

ひとたび気に食わなければその相手をまるで棒きれのように振り回すことも容易いその類まれな身体能力は、気づけば触らぬ神に祟りなしと。

それは元はと言えば家族を守るためであったのだけど。

 

『お、前ら』

 

しかし、シロノマガツは逃がされた。

愛すべき、弟妹たちに。

兄様、兄様…元気でね。

そのひと言をもって、背を押された。

 

『兄様、どうかお幸せに』

 

その言葉を最後に、シロノマガツは弟妹たちに送り出された。

そして、そのままずっと会えないままだった。

 

 

───叔父貴。

 

そう呼ばれて、パチリと目を開けば腹心である右腕がいて。

「どうした」と声をかければ、最近よく来る若造が今日も今日とて飽きもせずやってきたらしい。

本来なら部下たちが丁重に追い返すのだろうが、かの若造はシロノマガツが出るまで帰らぬと頑なであるから。

「またか」とシロノマガツは慣れたように立ち上がる。

若造がどんな顔をしているのかなんて見なくてもわかる。

 

───今日こそ。

 

見慣れた顔が、眼が、そう告げる。

まったく飽きもせず。

こんな老いぼれに何を期待しているのか。

シロノマガツは、若造が己に何を求めているのか皆目見当もつかなかった。

 

「…」

 

とはいえ。

件の若造との勝負は年甲斐なくシロノマガツを滾らせる。

ウマ同士の小競り合いは、こうして走ることでケリをつけるのが一番手っ取り早い。

原初的で、単純明快で、それでいてシロノマガツの心を…何よりも熱くする。

「若造」と声をかければ、若造はパッと顔を上げて、それからいつものように不貞腐れた顔。

その顔がまた年相応のものに見えて、シロノマガツも思わず笑ってしまうのだ。

基本、気難しい顔ばかりの若造である。

今のような顔をしていればそこそこの可愛げがあろうと思うのに、ずっとずっと鉄面皮。

「そんなんじゃあ女子(おなご)にも逃げられるンじゃあないか」とからかえば、「うるさい」とただひとこと。

 

「年寄りの忠告だがなぁ」

「あれだけ走れて…どこが年寄りだ」

「…本当に年寄りだが?」

「その般若の面で歳が分かるか!」

「まぁ…それもそう…か?」

 

くつくつと笑う。

さて次は…いつ頃来てくれるのだか。





【白の大侠客】:
シロノマガツ。
若くて命知らずな若人が好き。
まぁ普段は恐れられてるからね。
またそれはそれとして下にきょうだいがそこそこいる。
でも他のきょうだいとは違い、シロノマガツだけは母親に似なかったらしい。
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