夢中になると夢中になってることにリソースが裂かれて、それ以外が疎かになることって、あるよね。
申し訳ない、とは思っているのだ。
自分は…というよりは自分の家系は、何かしらに集中してしまうと周りが見えなくなるという悪癖がある。
ただ読書をしているだけでも、読んでいる本に集中して周りの音が聞こえなくなるほどだから、それよりもずっとずっと熱中するものを見つけてしまったが最後…。
そのため、
「すみません。その、あの…現役時代のことはあまり、覚えてなくて」
昔のことは、よく覚えていない。
だってその頃が、あまりにも輝かしく、愛しい
走ることは楽しい。
ついで『本格化』という自分の肉体スペックの最高潮と、自分の肉体をフルに使って走ることに専念できていたのだから。
それはとても楽しい時間だった。
だから、
*
あの一族に列なるウマは。
余っ程の相手ではないと、他の相手を覚えていない。
あの時、自主退学しそうなところを熱心に引き留めた相手だろうと。
あの時、『次こそお前に勝ってやる』と何度も何度も己に、吠えるように宣言してきた相手だろうと。
君と走るのが楽しい、と笑顔で伝えたような相手がいたとしても。
その相手のことを、余っ程でもない限りは覚えていないのだ。
だって、それほどまでに走ることが楽しかったから。
だから覚えていることの大半は『自分がどう走ったか』ということばかりである。ので、
(はて)
今のは誰だったかしら?と首を傾げる。
『あの時一緒に走ったあの』が一番多い文言だが、『クラスメイトだった』とか『あの時助けてもらった』とかいう文言も、また多い。
しかし、そう言われた張本人はその何もかもを…覚えていない。
そのため、『そんなことあったっけ?』と本気で首を傾げる。
そして、
(あ)
またやっちゃった、と思った。
自分は昔からそうだった。
走ることに夢中になりすぎて、それ以外のことを疎かにしてしまう悪癖がある。
故にきっと……今、目の前にいるこのウマも自分のせいで傷ついてしまったのだろう。
いや、自分が傷つけたわけではないけれど……でも結果的には傷付けてしまったのかもしれないから……それはとても悪いことだ。
「すみません」
なので謝ることにしたのだが──しかし相手はその言葉で納得しなかったようで。
息が詰まるぐらいに胸ぐらを掴まれては必死に何か言い募ろうとした。
言い募ろうとしたことを『何か』と評したのは、
「……何やってんだ、アンタ」
そう言って、己が胸ぐらを掴みあげたウマを強かにぶん殴った───親友が来たから。
「あ、ありがと」
「また変な奴に絡まれてんなぁ、お前は」
呆れ声を聞く。
その声に「ごめんね」と謝れば、「先に行ってろ」と。
「ついでに怪我してないかも見てもらってこい」と送り出され…。
・
・
・
大切なあの子は知らぬまま。
とても、いい子に去ったあと。
「アイツに覚えてもらえなくて」
──可哀想に、な?
あの子に『親友』と呼ばれるウマが、そう小さく嗤えば。
「ハハッ、ひっっでぇ顔で」
銀系列:
銀弾も含めて基本そう。
『走ること』に夢中になりすぎて、人間関係のことをほぼ覚えてない。
現役時代に日常生活でもレースでもめちゃくちゃオトしまくってるのに、当の本人が覚えているのは身内枠(自分を支えてくれたトレーナー等チームの人間とか"きょうだい"とか親友とか)のみという。
周りは可哀想なくらいに焼き付けられてるのにね。
……かわいそ。