さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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落ち着く音色。



或る旋律

ピアノを、はじめて弾いたのはいつだったっけ?

何となく、幼いころに祖父に勧められて椅子に座った記憶はあるが。

聞くに、何らかの曰くがあるというそのピアノはいちおう日本家屋だった家に見合うような、見合わないような、そんな立派なピアノであった。

 

『いいピアノだとは思うヨ』

 

そう言ったのは祖父で。

母が昔ピアノを習っていたというから残されていた楽譜を奥から引っ張り出してきてもらっては練習した。

その音を聞きつけて時折母が教えてくれたけれど、ついぞ母のような超絶技巧には届きはせず。

趣味でやっているにしては…くらいの力量がついて終わったのである。

 

「ま、お前手ちっちゃいし」

「そういうもん?」

 

壁に寄りかかって、久々にピアノを弾こうとしている母を見やる。

なめらかな指。

白い肌。

女性としては平均よりも上背のある方。

その背にさらりと黒髪が流れて、うつくしいひとだなぁとボンヤリ思う。

ふだん着ている服もシンプルなものばかりで化粧だってあまりしないし(父とデートに行くときは別)アクセサリー類もほとんどつけない。

だから余計に、こうしてピアノを弾いているときの姿は目を引くのだ。

 

「…………」

 

ポン、と音が鳴る。

私的な考えではあるが、楽器というのは演奏者の性格とか状態みたいなものが音で表現される気がする。

たとえばこの人はやさしい音色を出す人なんだとか、ちょっと不機嫌そうだとか。

…僕の母は、どちらかといえば感情をそのまま出すタイプなのでわかりやすいのだが。

 

(この時はものすっっっごく静かなんだよねぇ…)

 

思わず、眠りかけてしまうくらいに。

家族である僕らがリクエストすればテンポが速かったり、激しかったりする曲を弾いてくれるが母が弾くレパートリーの大体はこのような穏やかな曲で。

僕はそれがとても好きだった。

 

ポーン、ポーン……。

 

一定のリズムで鳴る音が心地よくて目を細める。

あー、眠い……。

でも寝たら怒られるだろうなぁと思いつつ、瞼が落ちてくる。

……ぐう。

 

 

「寝たか」

 

部屋の隅で、くぅくぅ寝始めた我が子を見てホワイトリリィは別室に毛布を取りに行った。

普段は我が子ながらしっかりしていると思うのに、こういう時の顔立ちはまだまだあどけない。

そっとブランケットをかけてやり、鍵盤に向かう。

先ほどまで自分が奏でていた曲をなぞるようにしてまた弾き始める。

それはかつて、いま現在眠っている我が子のために作ったものだった。

歌詞はない。

ただ静かに、ただ穏やかに眠れるようなそんな曲がよかったからだ。

…やがて曲は指が疲れたことによって終わる。

けれども。

 

「…よだれまで垂らしてまぁ」





僕:
シルバーバレット。
母であるホワイトリリィが弾くピアノが好き。
いちおう僕自身もピアノは弾くには弾けるらしい。

【白百合】:
ホワイトリリィ。
昔ピアノを習っていた。
本人は趣味と定めてピアノをしていたがその気になれば…だったかも?
ちな今回弾いた曲は赤子時代の僕の寝つきの悪さを解消するために作った曲だとか。
なお【白百合】がピアノを弾いている時は祖父か夫が赤子の僕を抱っこしているものとする。
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